第六十四話 正邪の剣<六>

凄まじい剣戟けんげきの音が続く。


「俺はお前を絶対に許さない!!おうちゃんを絶対に守ってみせる!!!」


妖刀白虎が猛攻を続け、憂流迦ウルカが刀で弾き返す。

金属と金属の重くぶつかり合う音が続く。

憂流迦ウルカが鋭い蹴りを繰り出し、すばるが体を回転させて避ける。

攻撃と防御の荒い息遣い、渾身こんしんの一撃を振り下ろす唸り声、巻き上がる土煙の激しい音。


「ぁぁぁ・・・ぁぁ・・。」


桜が苦しさにもだえる。

白虎びゃっこが桜に絡みついた蛇を喰いちぎろうと跳びかかる。

しかし、巨大な大蛇オロチの体当たりを喰らって弾き飛ばされる。


昴が刀を振るい、体勢を崩した憂流迦ウルカに回し蹴りを喰らわせた。


「ぐあ゛っ!!」


憂流迦ウルカが倒れる。


一方で、複数の大蛇オロチなぎに襲いかかる。

凪は頭を抱えるように膝をついたままだ。

双子と式神たちは各々が大蛇オロチに応戦している。

昴が身をひるがえし、凪へ向かって走り出す。


「凪!!」


昴が凪をかばって大蛇オロチの頭を叩き落とす。

続け様に別の蛇の頭が思い切り振り落とされる。

後方から双子が加勢し、次々と叩き斬っていく。

しかし、凪は痛みに悶絶もんぜつし続ける。

昴が凪の両肩をつかんで体を支えた。


「凪!!しっかりしろ!!」


「うあぁぁぁぁぁああ!!!や、め・・ろぉぉおおお!!」


激しい痛みにえる凪に昴が必死に言葉をかける。

しかし、その言葉は凪には届かない。

昴は憂流迦ウルカにらむ。


憂流迦ウルカ!!凪に何をした!!?」


「何って・・、凪君の天叢雲剣あまのむらくものつるぎ大蛇オロチの一部。・・つまり、僕ノ一部ダ!」


「何だって!!?」


憂流迦ウルカが奇妙な声で笑い続ける。


「・・僕の魂ヲすべてアイツにくれてヤッた!!僕ハ大蛇オロチと一ツにナル!!」


「お前・・、どこまでもちやがって・・。」


「あと少しダ!!あと少しで僕と大蛇オロチの魂ガ完全ニ同期スル!!そウすれバ、僕ガ大蛇オロチだ!!僕コソ破壊の神ダ!!」


叫んだ憂流迦ウルカが凪に邪悪な思念しねんを送る。


「凪君、全員殺セ!」


「・・や、めろ・・・!う゛あぁあああああああああ!!!!」


凪が何かを振り払うように剣を振り回す。


「若様!!しっかりしてください!!」


双子が駆け寄ると、凪は攻撃を繰り出した。

凪の鋭い攻撃を双子が受け止める。


「若様!!?」


「ダ、メだ・・!!俺から、・・離れ、ろ!!ぁああああ゛あ゛ぁぁぁ!!!」


「若様!!しっかりして・・」


有無を言わさず凪の剣が双子を襲う。


「!!」


双子は必死に攻撃をかわす。

憂流迦ウルカの黒い血で染まった口が不吉な笑い声を上げる。


「アハハハハ!!いい眺めダ!!実に面白い!!」


昴が怒りのこもった声で叫ぶ。


憂流迦ウルカ・・、やめろ!!!」


「ヤめナイよ!!僕はこの世を永遠とわに続く地獄に死テやる!!光栄に思エよ!!この娘もオワリだ!!全員皆ゴロシにしてヤル!!!」


憂流迦ウルカがそう叫ぶと、締め上げた桜を大地を目掛けて急降下させた。


「死ネェ!!!!!!!」


昴が地を蹴って激走する。

妖刀白虎が伸びた蛇の群れを叩き落とす。

桜が硬い大地に叩きつけられそうになる。


「桜ちゃん!!」


昴が走り込んで桜を抱きとめる。

二人はそのまますべるように焼けた大地を転がった。

昴が桜を抱きかかえる。


「桜ちゃん!!大丈夫!!?」


「・・昴様。」


桜が弱々しく昴の頬へ手を添える。


「凪様が・・。」


昴が桜の手を握る。


「わかってる!」


すると、憂流迦ウルカがニヤリと笑った。


「そろそロだよ・・。ソロソロ僕と大蛇オロチノ魂ガ完全に一ツになる!!」


突然、大蛇オロチ憂流迦ウルカを目掛けてきばいた。


「!!!!!」


猛烈な勢いで襲い狂う大蛇オロチ憂流迦ウルカの腹を喰いちぎる。


「阿アぁあ゛阿阿あ゛あ゛ァァぁああ゛あ阿あ゛ぁァァ!!!!!」


憂流迦ウルカが絶叫する。

昴が叫ぶ。


憂流迦ウルカ!!一体何を・・!!?」


「ぐあ゛あ゛阿あ゛阿阿あ゛あ゛阿阿阿ぁああ゛ァァァァァ!!!!!」


憂流迦ウルカの体が大蛇オロチによってむさぼり喰われていく。

それでも憂流迦ウルカの顔がえつひたっていく。

凪がその隣で頭を抱えて倒れている。


「・・こ、レデ、僕は大蛇オロチと一つになレル・・。僕ハ絶対の力ヲ手に入れる!!万能ナル力ヲ手に入レル!!!」


大蛇オロチ憂流迦ウルカの体をむさぼり喰い続ける。

血肉が裂けてぬちゃぬちゃした捕食音が響き渡る。

大蛇オロチの口から憂流迦ウルカの腕がこぼれてボトリと地に転がった。

すると別の蛇がその腕を骨ごとむさぼり喰らう。

ぬちゃりぬちゃりと粘り気のある不気味な音が辺りを包む。

大蛇オロチの口から黒い血がしたたり落ちる。

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