第六十三話 正邪の剣<五>

金属同士のぶつかる衝撃音が響いた。

なぎの左腕が憂流迦ウルカの刀を受け止める。


「・・おうに、手を出すな!!!」


凪が怒りに震えた声で叫ぶ。


「それは受け入れられないお願いだ・・!僕はお前らが邪魔なんだよ!!」


憂流迦ウルカが凪を押し退けると、刀同士の激しいぶつかり合いが始まる。

凪が憂流迦ウルカの猛攻を弾きながら桜を守る。


「くそ!」


「邪魔スル奴は殺ス!!」


次の瞬間、憂流迦ウルカが宙を舞う。


「俺は負けない!!」


凪は右手の刀で憂流迦ウルカの一撃を受け止めた。

それを軸に自分の体を思い切り回転させ、振り向き様に左腕の斬撃を叩きつける。

刃が血肉の断裂音とともに憂流迦ウルカの腹をさばいていく。

目の前を黒い血飛沫ちしぶきが飛んだ。

憂流迦ウルカ後退あとずさり、蹌踉よろめく。


「ぐはぁ・・・・。」


憂流迦ウルカの口から黒い血がしたたり落ちる。

しかし、ニヤリと不適な笑みを浮かべた蛇の口がしゃべる。


「凪君、一つだけ良いことヲ教えてあげようか・・。」


「今更何を言う!」


ケタケタと不気味に笑う憂流迦ウルカの視線が凪の両目を鋭く射抜いた。

憂流迦ウルカの目玉が蛇の目に変わる。


「なっ!」


凪の意識の中で憂流迦ウルカの邪悪な思念が浸食し始める。


「あのさぁ、忘れたわけじゃないよねぇ?君の左腕の絡繰からくりが何なのかってことを・・。」


邪悪な思念に捕らえられた凪が頭を抱える。


「ぅぁあ!!何をする・・!!」


「君の左腕の剣の意味をもっとよく考えた方がいいよ。それは、正邪の剣・・。正は天照大御神あまてらすおおみかみの力、邪は大蛇オロチの邪悪な力・・。」


より一層強くなる邪念に凪の頭が割れそうになる。


「ぐぁあああぁぁぁ!!」


「凪様!」


桜が凪の体を支えようとするが、凪がその手を振り払う。


「桜・・、俺から、離れろ!」


「凪様!どうされたのですか!?」


憂流迦ウルカが喉の奥を鳴らして笑う。


「無様だなァ!!あノさァ・・、僕は大蛇オロチニ魂を半分くれてヤッたんだ。だから、僕ノ半分は大蛇オロチそのモノなんだよ・・。だけど、この前の戦いで大蛇オロチも傷ヲ負わサレタ・・。」


凪が苦しみに絶叫する。


「うぁぁぁああぁあ!!!」


桜が凪の体を支えながら叫ぶ。


「あなたは、凪様に何をしたのですか!!」


「何ヲって・・。僕は残りノ魂も大蛇オロチにくレテやったんだよ!・・それはもうスグ完全に一体とナル。大蛇オロチが僕になる・・。僕ハ大蛇オロチの絶大ナ力ヲ手に入レル!!この世界モ何もかも全部ぶっ壊してヤル!!!」


「そんなこと!!許されるわけない!!」


「小娘ガ僕に命令ヲするナ!!許スかどうかを決メルのはボクだ!其の男ノ左腕は大蛇オロチの体の一部でもアるんだよ!!」


憂流迦ウルカが刀を振るいあげ、凪を目掛けて突進してくる。


「凪様を殺させない!」


桜は両手で印を結び、左胸の五芒星ごぼうせいに集中する。

桜の体に強烈な力が充満し、急激な勢いで圧力がかかる。

桜は不安定な体を必死に保ちながら叫んだ。


黄竜こうりゅう!!凪様を助けて!!」


天空に走る凄まじい稲光いなびかりとともに左胸から強大な力がほとばしった。

ブレた光の光線が憂流迦ウルカを目掛けて放たれる。

桜が吹き飛ばされる。


「あああぁぁああぁぁぁぁ!!!!!」


「う゛ぎゃぁぁ阿ア阿あ゛あ゛ぁぁああああ!!!」


桜の光の攻撃が憂流迦ウルカの右腕をえぐりとった。


「あぁぁぁアノ女!!!お前ヲ先に殺してヤル!!!」


怒り狂った憂流迦ウルカの髪が蛇に変わると桜を目掛けて突進する。


「桜ちゃん!!!」


大蛇オロチを振り払った昴が駆けつける。

しかし、桜の首に大量の蛇がからみつく。


「ぅぅ、ぁぁぁ・・・」


憂流迦ウルカ!やめろ!!」


しかし、桜の体は締め上げられながら上空へと上がっていく。

幾重にも絡みついた蛇の群れがその筋肉の収縮で桜の体を締め付ける。


白虎びゃっこ!行くぞ!!」


昴と白虎が憂流迦ウルカを目掛けて激走する。


「桜ちゃんを離せ!!」


「コノ女は殺す!!」


昴と憂流迦ウルカの刀が交差して激しい攻防戦が始まる。


「昴!君ハ僕に勝テない!!無駄だ!!あきらめテ僕のものにナレ!!」


「ふざけんな!!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る