第八十六話 陰陽<中編>

おうが白虎の背から飛び降りた。


なぎ様ーーーーーーー!!!!!!」


凪は意識が朦朧としながらも顔をあげると空から降り落ちてくる桜の姿が映る。

体は相変わらず思い通りに動かないが、それでも懸命に桜の体を受け止めようと手を広げる。


「ぅぅ・・、桜、・・・危ない。」


落下する桜の体が地表に近づくと黄竜の霊気が浮力を持たせ、急速に速度を落とした。

桜がふわりと凪の腕の中に飛び込む。柔らかく温かい感触が凪に伝わる。


--・・・桜の香り。


しかし、すぐに凪が彼女を押し除ける。


「桜・・、俺に、・・近づくな!」


再び、凪の頭が締め上げられて軋むような激痛が走る。

桜が再び凪に近づく。


「来るな!!俺は、桜を傷つけようと・・、して、・・いる!!」


凪が離れようとするが、桜は毅然とした足取りで近づく。


「凪様は私を傷つけるような人じゃない!!」


桜は真っ直ぐな瞳で凪を見つめる。


--だめだ!!!俺は桜を傷つけたくない!!・・なのに!!!


再び、邪念が凪の意識を覆い隠すと、自分の意志とは裏腹に左腕の剣が鋭く一閃した。避けようとした桜が顔を横に向けながら後退る。

剣先が頭を掠めた拍子に結紐が切れて髪が解け、さらりとした桜の美しい髪が広がった。


--違う!!俺は桜を傷つけたくない!!


「桜・・、来ない、で、・・くれ!!!」


「いいえ!私は凪様を信じています!!」


--だけど、俺は今にも君を傷つけそうなんだ!!


それでも桜は凪の前へと歩み出ると、彼の背に腕をまわして優しく抱きしめた。

そして、凪のために祈りを捧げる。


「凪様は自分の正しい心を取り戻せる。必ず!」


桜は自分より背の高い凪の肩に頬を寄せて願いを伝える。


「もう一度、自分の心を思い出して。」


左胸の五芒星が輝きを放つ。

桜の左胸から溢れる光が凪の体に浸透し、黄竜こうりゅうの霊力によってオロチの邪気が次々と消えていく。

凪の心にも一筋の美しい光が差し込む。


--これが・・、君の・・、光・・・!


すると、蛇のように赤く光っていた凪の瞳が澄んだ輝きを取り戻した。



桜の覚醒した神龍の霊気が、天叢雲剣あまのむらくものつるぎに流れ込み、凪の左腕が純白の鱗に覆われる。鋭利な刀身はまるで凪の意志を纏うかのように一切の穢れない強い輝きを放ち、真の神剣となった。

二人の頭上に巨大な龍神が姿を現す。



『星の授け給ふくしと日の神の使者よ!さあ、共に手を取り合い、目の前の禍を討ち果たせ!!!』



凪は右手で桜の手を握り、左腕の天叢雲剣あまのむらくものつるぎで前方のオロチを指し示した。


「桜、一緒にオロチを討つぞ!!!」


「私の覚悟は決まっています!!!」


桜と凪の決意が固まると、霊気の塊そのものである黄竜が桜と凪を透過して重なり、二人の体を包み込んだ。神龍と一体化した二人が走り出す。すると、徐々に体が浮かび上がり、二人の意志と共に神龍の躯体がオロチに向かって凄まじい速さで滑翔を開始する。


「桜、俺たちはこのままオロチに突っ込む!!!!!」


凪は桜の体をしっかりと支える。


「桜、俺から絶対に離れるな!!!」


「凪様!私はこの手を決して離しません!!!」


神龍と一つになった二人が疾風の如く飛翔する。

美しい光の尾を引いて、こぼれ落ちた光が焼けただれた大地に聖なる輝きを与えていく。

黄金の神龍が速度をあげる。

オロチが咆哮すると、手に持った鉄球の武器が双刃刀そうじんとうと変わり黄竜に襲いかかる。

黄竜が駆体を上方へ転換させ、鋼の尾で双刃刀そうじんとうを強烈に払い退けた。

巨大な武器が払われた反動で大地を叩きつけて、地響きが轟音となる。

天高く舞い上がった黄竜がオロチを見据え、堂々たる雄々しい雄叫びをあげた。

凪が強い意志を持って叫ぶ。


「オロチ!!!俺たちはお前を討ち倒し————」


桜が決然たる言霊を続ける。


「私たちの未来を手に入れる!!!!!」



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