第六十一話 正邪の剣<三>

鋭い金属音が響き渡った。


「やめろ!!!!」


憂流迦ウルカの刀とおうのギリギリの間合いで、鋭利にきらめ天叢雲剣あまのむらくものつるぎ憂流迦ウルカの攻撃を食い止めた。


「桜を傷つけるな!!」


なぎ様・・。」


怒りの炎が燃える凪の双眼が憂流迦ウルカを鋭くにらみつける。


「いい加減にしろよ!!」


ギリギリと金属同士が圧迫しながらなじり合う摩擦音が走る。


「凪君・・。君といい、その娘といい、僕の邪魔をするな!!目障りだ!!!」


「勝手なことばかり言うな!!桜の母親だけでなく、桜の命まで奪おうとするなんて、そんなこと絶対に許されない!!」


凪は刀ごと憂流迦ウルカを押し退ける。

二人が睨み合い、再び激しい剣戟けんげきの音が始まる。


「笑わせるな!君にそんなことを言う権利があるのか?」


憂流迦ウルカが凪を目掛けて力一杯に刀を振り下ろした。

凪が受け止める。


「あのさァ・・、君は戦で何人殺した!?言ってみろよ!!」


憂流迦ウルカが長い舌を出して冷たく言い放った。


「それは・・。」


凪の脳裏に敵将の首を切り落とす瞬間の記憶が鮮明によみがる。

記憶の中の凪が刀を振りかざし、その男の首をり飛ばす。

肉をいていく重たい感触が刀を伝う、赤い鮮血が飛び散る光景、刀が首の骨に当たる鈍い抵抗・・。

それでも凪は無心で刀を水平に払う、首が落下する、遅れて物体が地面に衝突する音がする、ゴロンと生首が転がる・・。

さっきまで猛然もうぜんと挑んできた敵の総大将は呆気あっけなく首をね飛ばされた。

ただ、その両目だけが大きく見開かれて最後まで凪をにらみつけている。

それらの一連の光景が一瞬のうちに凪の脳裏を横切った。

凪は我に返ると憂流迦ウルカを振り払う。

憂流迦ウルカ罵声ばせいを浴びせる。


「答えられないんだろっ!それでも君は君だけの綺麗事を言うの?世の中は矛盾だらけだ!白と黒のどちらか一方で決められない事だらけなんだ!凪君、君はそのことを君自身がよく理解しているはずだ!」


再び、刀と刀の激しい争いが始まる。

凪が叫ぶ。


「俺には守らなければならないものがあるんだ!!俺が戦わなければ国も民の命も守ることができない!!白黒で決められないことだって当然ある!だからこそ考え抜くんだろ!!何を守るのか!何が大切なのか!より多くの民が幸せになるためにはどうすればいいのか!俺のすべてをかけて考え抜いて決めるんだ!!」


「だから!!そんなものはタダの綺麗事だよ!!僕は僕のための正義を突き通す!!」


それでも凪は憂流迦ウルカの刀を払い退ける。


「俺は国を守るために戦う!そして、桜を守るために戦う!お前は自分の欲のためだけに多くを犠牲ぎせいにしすぎたんだ!それは大義たいぎとは言わない!!」


憂流迦ウルカの刀が鋭く振り下ろされる。

重い金属音が響き、凪が相手の攻撃を受け止める。


「だからさァ!!大義たいぎとか訳のわからない思想はいらないんだよ!!力がすべてだ!僕はそれをまつりごとの世界で嫌というほど思い知った。だけど、力さえあればなんでも自分の思い通りだ!!」


「違う!!!」


凪の猛攻が憂流迦ウルカに迫る。

憂流迦ウルカが弾いて叫ぶ。


「違わない!!必要なのは恐怖と破壊だ!!絶対的な力こそ正義だ!それこそが真の力だ!!」


「違うって言ってるだろ!!」


「・・あはは!分からないか!!僕も凪君の言う大義たいぎが全く理解できないよ!!」


今度は憂流迦ウルカの猛攻が始まる。

刀と刀が激しくぶつかり合う。

凪の二刀流が憂流迦ウルカの攻撃を必死に防ぐ。

次の瞬間、凪がわずかに体勢を崩した。

凪の後方にいる桜と憂流迦ウルカの目が合う。


「凪くんの大切なものを僕が壊してやろう!!思い知らせてやる!!そうすれば君も僕の気持ちが痛いほど分かるはずだ!!!」


「やめろ!!!」


憂流迦ウルカが地を蹴り桜を目掛けて激走する。


「娘!!!殺してやる!!!!」


「・・・ぁあ・・。」


桜は震えで体が動かない。

再び桜の真上から憂流迦ウルカの刀が振り下ろされる。

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