第六十〇話 正邪の剣<二>

「僕の愛をすばるに分からせるためにも、この鏡は邪魔だなぁ・・。クソ邪魔だ!!!」


「やめろ!!何をする気だ!!!」


昴が叫び、地をる。

次の瞬間、間合いを素早く詰めると妖刀白虎を思い切り振り下ろす。

憂流迦ウルカが弾いて跳び退しさる。

弾かれた昴が体勢を崩す。


「それは神の鏡だ!!返せ!!」


続いて、なぎ憂流迦ウルカに向かって右手の刀を鋭く振るう。


「黄竜を目覚めさせられたら困るんだよねぇ!!そんなことさせる前にその娘の力を僕がむさぼり喰ってやる!!」


「ふざけるな!!」


憂流迦ウルカが凪の猛攻を次々と弾き返す。


「僕は昴を手に入れる!そのためにすべてをぶっ壊す!」


凪と双子が憂流迦ウルカふところへ跳び込む。


「三人で来たって無駄だ!僕は大蛇オロチの力を手に入れた!この世で最強の恐怖を手に入れたんだ!!」


凪が右手の刀を一閃いっせんさせると憂流迦ウルカが弾き返す。


憂流迦ウルカ!そんな力は絶対に認めない!!」


凪は左腕に意識を集中する。

体がドクリドクリと強い脈を打ち、全身を熱い血潮ちしおが駆け巡っていく。

霊妙れいみょうな光が左腕を包み、指先から次々に白い蛇のうろこに覆われていく。

凪の感情が戦いの化身と同期していく。


天叢雲剣あまのむらくものつるぎ!!!俺がこの剣でお前を倒す!!」


左腕に鋭い光を放つ正邪の剣、天叢雲剣あまのむらくものつるぎが降臨した。

すかさず、凪が剣を振り落とす。

甲高い金属音が響くと、凪と憂流迦ウルカが刀で押し合いながらにらみ合う。


「凪君・・、その剣もクソ邪魔だ!!!僕の邪魔をするな!!!!」


凪が相手を押しやって体を離す。


すぐさま、宙を舞った双子が刀を振り下ろす。

憂流迦ウルカと双子の素早い剣戟けんげきの音が次々と鳴り響く。


「その鏡を返せ!!」


双子が叫ぶと憂流迦ウルカの持つ鏡をつかもうとする。


「小狐どもが!!邪魔くさいんだよ!!!」


憂流迦ウルカが刀で双子を振り払い、続け様に強烈なりを喰らわせる。


「ぐはぁっ!!」


双子の体が蹴り飛ばされる。

昴が走り込み猛然と刀を振るう。


憂流迦ウルカ!!貴様!!いい加減やめろ!!!」


妖刀白虎の斬撃を憂流迦ウルカの刀が受け止める。

昴が猛攻を続け、凄まじい金属音が鳴り続ける。


「昴!!どうして僕の愛を受け入れないんだ!!」


「ふざけんな!!お前のは愛でも何でもないんだよ!!!」


激しい剣戟けんげきの音が続く。


「なぜなんだよ!?僕と昴は子供の頃から同じ陰陽寮で机を並べた仲じゃないか!!あの頃から、僕はずっと昴を愛してる!!」


すると、昴が言い表せない感情の片鱗へんりんこぼした。

昴の瞳が悲しみにかすかに揺れる。


憂流迦ウルカ・・、お前、いつからこんな・・、昔は・・。」


「何がいけないの!!?昴を手に入れるためなんだよ!!?あのクソ女を殺して君を僕のものにするのがなぜ悪いんだ!!僕は昴のためだったら悪魔にだって魂をくれてやる!!!」


憂流迦ウルカが人間とは思えない異様な声で笑う。


「糞野郎はてめえだろ!!!言ってることが滅茶苦茶だ!!!」


昴の刀が振り下ろされ、憂流迦ウルカが受け止める。

憂流迦ウルカが力で押しやって後ろへんだ。


「どうして僕の思い通りにならないんだよ!!!君をこんなに愛してるのに!!なんで僕だけ!!!?・・こんな鏡!!こんなものは邪魔だ!!」


刹那せつな憂流迦ウルカが鏡を一刀両断した。


「お前!!」


甲高い音とともに八咫鏡やたかがみが真っ二つに割れて落下していく。

鏡はゴロンという無機質な音を立てて地面に転がると、不規則に波打ちながら揺れて止まった。


「鏡が・・。」


後ろで白虎びゃっこ玄武げんぶに守られているおう愕然がくぜんとした声をらした。

すると、憂流迦ウルカが桜に狙いを定める。


「あの娘もクソ邪魔だ・・。阿阿アァぁあああ阿あァァぁ!!!全員皆殺しだ!!」


憂流迦ウルカが猛烈な勢いで桜を目掛けて迫り狂う。


「白虎!!!玄武!!!桜ちゃんを守れ!!!」


昴が叫ぶと、憂流迦ウルカに向かって白虎が体当たりを仕掛ける。

玄武が大地を踏み締め鋭い岩の牙を隆起りゅうきさせる。

憂流迦ウルカも叫ぶ。


大蛇オロチ!!!」


すると、突如として湖水からヌラリと巨大な大蛇オロチの首が現れた。


「娘を殺れ!!!!!」


大蛇オロチは桜を目掛けて猛烈な速さできばを向く。

昴が駆け出す。


「桜ちゃん!!!」


双子も駆け出す。


「我々も桜姫をお守り致します!!!」


白虎が大蛇オロチの頭に突撃されて叩き飛ばされる。

しかし、すぐに飛びかかって蛇の首に喰らいつく。

玄武の大地の牙が大蛇オロチの長い胴体を切り刻む。

横から別の大蛇オロチが玄武を叩き飛ばす。

蛇の群れの間から憂流迦ウルカが桜に襲い狂う。


「娘ェ!!!!!死ねえええぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」


憂流迦ウルカ!!!」


憂流迦ウルカを追って昴と双子が激走する。


「あ・・。」


しかし、間に合わない。


目の前に迫った憂流迦ウルカの刀が桜の真上に振り上げられた。

すべての動作が極限までゆっくりと鮮明に迫る映像のように見える。

憂流迦ウルカの眼光が不気味に光る、刀が振り下ろされる、桜の美しい瞳が閉じていく。

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