第五章

第五十七話 自燈明、道を開く<前編>

青龍せいりゅう様の住む森は深く静かだった。

私たちはき火を囲んで湯を沸かし、携帯した干し飯や味噌玉を口にする。

しばらくなごやかな会話が続いた後にすばる様が私に話しかける。


おうちゃん、以津真天イツマデと戦った時、黄竜こうりゅうの力を使ってくれたね。」


昴様の後になぎ様が続ける。


「あの光の玉がなかったら俺たちは勝てなかったかもしれない。桜のおかげだよ。」


「・・でも、私はあの力をまだ上手く使いこなすことができません。自信がないのです・・。」


昴様が私の髪をでる。


「大丈夫だよ。・・それについては俺も、『考えたこと』があるから。自信を持って、桜ちゃん。」


隣の昴様を見上げると優しく微笑んでくれた。

私はその肩に頭を寄せて少しだけ甘える。

すると、青龍様が純粋な言葉で私に伝える。


「そうだよ桜ちゃん!僕もみんなと戦うんだ!!だから、僕も桜ちゃんと一緒に戦うよ!僕はみんなを守るんだ!!」


そう言うと、昴様の膝の上に座っていた小さな青龍様が私に抱きついてくる。


「ふふ、可愛らしいお侍様ですね。」


「ほんとうだよ!僕が桜ちゃんを守るんだから!」


「ふふ、もちろん私は青龍様を信じています。ありがとう。」


私が青龍様を抱きしめると、私の胸に甘えるように顔を埋める。


「桜ちゃん、いい匂いがする!」


「ふふ。」


その後も焚き火を囲んだ和やかな会話が続いた。

青龍様は凪様に肩車をしてもらったり、双子のお二人の顔を見比べて違うところを一生懸命探したりと、可愛らしい子供のようにはしゃいでいる。

私はそんな青龍様の姿を微笑ましく思いながらパチパチと鳴る暖かい炎の揺らめきを眺めていると、疲れで段々と眠くなる。


「・・皆様、先に少し休ませていただいてもよろしいでしょうか?」


「うん。無理しないで桜ちゃん。ゆっくりおやすみ。」


「おやすみ、桜。」


「桜姫、おやすみなさいませ。」


昴様が式神の小虎に指示を出す。


「小虎、桜ちゃんと一緒に行って。一人だと心配だから。」


すると、小虎を抱えた青龍様が私の隣にちょこんと座る。


「僕も桜ちゃんと一緒に寝る!」


「ふふ、一緒に眠りましょう。」


「うん!」


青龍様が私の手をとって一緒に穴蔵の中へ入っていく。

そこは岩がけずられた洞窟どうくつになっていて、中には大きな空間が広がっていた。

どこかに風穴があるのか空気が程よく循環じゅんかんして居心地の良い場所だった。


「桜ちゃん、あのね・・・、子守唄こもりうたを歌ってほしい!」


小さな青龍様が私に抱きついてくる。


「ふふ、可愛い・・。そうね、良い子が眠るために子守唄を歌いましょうね。」


私は青龍様と一緒に大きな白虎びゃっこのふわふわのお腹を枕にして子守唄を歌う。

ウトウトと夢うつつになっていく青龍様が「黄竜こうりゅうさん・・。」とつぶやいた。

青龍様の背中をぽんぽんと軽く叩きながら歌っていると、やがてすやすやと寝息を立てはじめる。

その無垢むくな子供の寝顔を見ていると私の心は温かくなった。

そして、私も青龍様と一緒に束の間の眠りについていく。

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