第五十三話 黄金の五芒星<前編>

すばる様!!」


私をかばった昴様がうめき声をあげる。

けれど、昴様は再び力強く立ち上がる。


おうちゃんには指一本触れさせない!絶対に守る!!」


昴様が私の前に出る。

鬼の猛攻が襲い、白虎が昴様を庇うように体当たりする。

なぎ様たちも飛び込み、鬼を迎撃する。

鬼の硬い尾が強烈に叩き払われる。


「人間!!思イ知らセてヤル!!!」


再び猛烈な大量のやりが大地を目掛けて急降下する。

轟音ごうおんとともに大地に槍が突き刺さり、土煙つちけむりが立ち込める。

昴様が私を庇って槍の攻撃を弾き返す。

けれど、真空の槍は滝のように降り注いでくる。


「!!」


避けきれなかった槍が昴様の足をかすめて肉をぐ。

昴様が片膝をつく。

血が、流れた。


私は、あの光景が記憶の奥底からよみがえる。


--・・・あの時と同じ。


目の前で血塗ちまみれの母様が倒れている。

昴様が私を抱えて大蛇オロチの攻撃を弾く。

大蛇オロチきばが昴様の腕を血に染める。


--嫌だ。


昴様が私を庇って大蛇オロチの前へ出る。


--ダメ。


血塗れの母様が視界に入る。


--死んじゃダメ。


私の左胸のあざうずき出す。


--私の大切な人、死んじゃダメ!


「ダメ!!昴様!!死んじゃダメ!!!」


私は昴様の前へ出て手を広げる。


「やめて!!!!」


「桜ちゃ・・!!!!」


私の左胸が黄金の光を放ちはじめる。

私は鬼を見据みすえて叫ぶ。


「私の大切な人を傷つけないで!!!!!!」


強烈な光が左胸のあざから突き抜ける。

血が全身を駆け巡り、強烈なしびれと激しい熱が衝撃となって私の体に充満する。

目の前が黄金色になる。


「何だコノ光は!!???」


左胸の五芒星ごぼうせいから光が放出される。

けれど、力が強すぎて体中の均衡が不安定になっていく。


--体が・・、バラバラになりそう・・。だけど、持ちこたえて!!!


不安定な光が強烈に解き放たれる。


「ぎゃっあァァ阿阿ああ阿ァぁぁ!!!!!!!!」


以津真天イツマデが巨大な光の衝撃で吹き飛ばされ地に叩きつけられる。

私も耐えられず後方へ吹き飛ばされる。


「あぁぁぁ!!!」


「桜ちゃん!!!」


昴様が私へ駆け寄り抱きかかえる。


「白丸!!黒丸!!行くぞ!!」


凪様たちが鬼へ向かって激走する。

刀が宙を舞う、鬼の牙とはがねの尾が弾き飛ばす。


「あいつ!また上に飛ぶぞ!!」


再び鬼が急上昇すると猛烈な槍の雨を降らす。


「オンナ!!許すマジ!!!!」


鬼が奇怪な動きで猛烈に迫り、その爪が鋭く一閃いっせんする。

妖刀白虎が弾き返す。


「くそっ!!」


「喰ラエェぇぇ!!!」


鬼の尾が鋭く回転すると昴様と凪様たちを叩き払う。

赤い血が飛び散る。

再び鬼の尾が振り回される。

昴様が地を蹴る。


「うあぁっ!!!」


私を庇った昴様が叩き飛ばされる。

目の前で赤い血が飛び散る。


--血が、流れている・・。


それでも昴様と凪様たちは鬼に向かって激走する。

鬼の巨体に左腕の剣が叩きつけられる。

妖刀白虎が霊気を放って鬼をりつける。


「人間!!小癪こしゃくダ!!!」


鬼が咆哮ほうこうしながら爪と尾で振り払うと、天に向かって急上昇していく。

容赦無く槍の雨が襲う。

刀で弾き返す音、攻撃をかわす荒い息遣い。

空中戦を強いられた防戦が続く。


--このままじゃダメ・・。


私は立ち上がる。


--私も戦うんだ!


「もう一度行く!!」


私は両手で印を結び左胸の五芒星ごぼうせいに集中する。

グワンとした重力が上から重くのしかかり、押し潰されそうになるのを必死にこらえる。


「もう一度!!!」


再び左胸の五芒星ごぼうせいが光りはじめる。

黄金くがねの五芒星が強力な熱量を放ち出す。

けれど、力が強すぎて体の均衡は保てないままだ。

私は震える手で必死に印を結び、蹌踉よろめく体を垂直に保とうとこらえる。

光の焦点を集める。


--視界がぼやける。


私の足がふらつく。

凪様たちが鬼を攻撃する。

鬼が迎撃する。


--お願い!!


黄竜こうりゅう!!!」


黄金に輝く光の玉がブレた軌道を描いて強烈に放たれる。

凄まじい力が体の均衡を崩す。

同時に私も吹き飛ばされる。


「ナッ!!あのオンナぁーーーー!!!!!」


光の玉が鬼の巨体をかすめ、くうを斬り、避けようとした鬼が体勢を崩す。


「今だ!!!」


凪様が叫び、全員が以津真天イツマデに向かって激走する。

白丸様と黒丸様の刀が鬼の胴を切り刻む。

凪様の天叢雲剣あまのむらくものつるぎと昴様の妖刀白虎が叩きつけられて鬼の頭を真っ二つに割った。


「ウぎぁあアアァ阿阿ああ阿ァぁぁ!!!!!!!!」


以津真天イツマデが断末魔の叫び声をあげる。

その巨体が薄暗い鬼火に包まれて焼かれ、激しく地に崩れ落ちていく。

同時に鬼のまとった炎が、小さな人魂ひとだまとなって次々と天に昇って行く。

私はつぶやく。


むくわれなかった魂たちが天に昇っていく・・。」


以津真天イツマデの体がち果てていく。

残った肉が腐り落ち、骨になり、やがて灰となってさらさらと風に消えていく。

人魂ひとだまが次々と空高く昇っていくと、キラキラと輝いてどこかへいく。

私は彷徨さまよえる魂たちが天にされていく光景を最後まで見守った。

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