第五十二話 火球の衝撃<後編>

一行が南の朱雀すざく塚に到着する。

そこには西の白虎びゃっこ塚と同じように、丘の上に岩石があった。

岩は朱色っぽい赤茶けた色をしており、溶岩のように鉱物が高熱で溶けた後に冷えて固まったような形状をしている。


「朱雀塚に着いたけど、朱雀はどこに・・?・・・・・!!?」


すばるが岩を触りながら辺りを見回すと、ふいに真っ黒な影がおおう。

はらり、はらり、無数の大きな朱色の羽が天から降ってくると、けたたましい咆哮ほうこうが耳をつんざいた。


「今度は何だ!?」


なぎたちが空を見上げると巨大な火の鳥が暴れ飛んでいる。


「朱雀!!それに、あれは・・。」


昴が天をにらみ続ける。

その神聖な炎に包まれた朱雀の巨体に何かが絡み付いている。


「あれは、以津真天イツマデ!災が起こると現れるという怪鳥!とむらわれない死者の怨霊おんりょうが集まってできた鬼だ!!」


暴れる朱雀を鬼が締め上げる。

絡みついたそれは、恐ろしい鬼の形相ぎょうそうを持ちくちばしには鋭い牙が並ぶ。その巨体はうろこで覆われた硬い翼に、蛇のように長い尾が伸びている。そして、巨体のまわりには無数の怨念おんねん鬼火おにびとなって飛びっている。


以津真天イツマデ!!朱雀を離せ!!!」


叫ぶ昴の後におうが続ける。


以津真天イツマデ・・。火球の衝撃によりたくさんの命が奪われました。その怨念が鬼として姿形を変えた。・・。あの鬼は殺された者たちの怨念のかたまりです。」


「そう、そして憂流迦ウルカによって命を奪われた挙句、その魂をあやつられているんだ!」


鬼が朱雀をめ付けながらしゃべる。


うらめシイ・・、恨めシい・・。我ハ無情ニ打ち捨てらレた怨念たちノかたまりなる者・・。我ハ憂流迦ウルカ様から滅びノむくろ与えラレた者・・。どコにも行ケヌこの悲しみ・・、ドうにもならヌこの憎シミ・・。されば、憂流迦ウルカ様からいただいたコノしかばねヲ、彼方あなたノためニささげよウ・・。」


凪が鬼を睨む。


憂流迦ウルカは、自ら殺した人々の魂まで利用しようというのか!!」


すると突然、鬼の口がけて牙をく。


「怨念ハ黄泉よみノ国こそガ相応ふさわしい・・。憂流ウルカ様ハ大蛇オロチ様・・。サれば!我ノ主人ヲ邪魔スルものは殺してヤル!!」


苦しみに咆哮ほうこうする朱雀を鬼が地に叩きつける。

衝撃音が響き渡る。


「朱雀!!!」


衝撃で大地が削られ、朱雀が翼を弱々しくばたつかせる。

白虎が朱雀のそばへ走り寄り、宙の鬼へ雄叫おたけびをあげた。

ヌルヌルと巨体をくねらせた鬼がこちらを睨み付ける。


天叢雲剣あまのむらくものつるぎヲ持つ男、黄竜こうりゅうノ力を持ツ女・・。恨メシい・・。すグニこの世は黄泉よみノ国とナル・・。我ノ御主人サマノモノニナル!!」


ぬらりと鬼の顔がゆがむと鋭い牙をギラつかせた。


「おマエラも道連レにしてヤル!!」


またたきのうちに、鬼が爬虫類はちゅうるいの動きをする。

さっきまで向こうにあった鬼の顔が、突如、凪の頭上に垂れ下がる。

凪が叫ぶ。


「そんなことはさせない!!」


次の瞬間、鬼が異様な動きで凪に迫り狂う。


--早い!!!


以津真天イツマデが真っ赤に裂けた口を開くと鋭い牙がギラリと不気味に光る。


「オトコォォォォォォォ!!喰ってヤルゥゥゥゥ!!!」


凪が左腕の刃で相手の攻撃を弾くと、間髪入れずに第二撃が襲う。


「若様!!助太刀いたします!!!」


双子が凪を援護して迎撃する。

鬼の体に双子の刀が突き刺さる。

鬼が急速に宙を舞い上がる。


「人間!我ノ恨みィィィィィ!!喰ラえ!!」


鬼が背中の翼を羽ばたかせ強烈な風を起こした。

ビュオオビュオオと諸刃もろはの風が真空のやりとなり、凪と双子に降り注ぐ。


「くそっ!!白丸、黒丸!!けろ!!!」


凪たちが刀で槍を叩き落とし、体を回転させながらかわす。


「鬼の妖術ようじゅつか!!」


再び硬い翼を広げた鬼が、強烈な風と真空の槍を猛烈に降らせる。

襲い狂う槍を凪たちが叩き落とす。

槍が甲高い音を上げて次々と大地を転がる。

白虎が槍を弾いて朱雀を守る。

昴が桜をかばう。

鬼の鋭い爪が猛烈に迫る。


「オトコォォォォォ!!逃ゲルナァ!!喰ワセろ!!!」


「ぐぁあああああぁぁぁっ!!!!!」


凪の左腕が鬼の爪を受け止めるが、すぐにその尾で叩き払われる。

双子が地を蹴り鬼の巨体に刀を突き刺す。

昴が鬼の首元に走り込み、妖刀白虎を一閃いっせんする。


「あ阿アァ阿阿ぁぁあああアアァ!!」


鬼が己の巨体を地に叩きつけながら双子と昴を振り払い、再び急上昇した巨体が無慈悲むじひに槍の雨を降らす。

無情に降り注ぐ槍の雨が桜を襲う。


「桜ちゃん、危ない!!」


昴が桜を抱きかかえ、地を蹴る。

大量の槍が大地に突き刺さる。

大地が削られ鋭利なとどろきが響き渡る。


「くっ!!」


際限なく続く槍の雨が昴たちを襲う。

妖刀白虎が次々と弾き返す。


「オンナァァァァ!!お前も喰ってヤル!!!」


不気味な速さで鬼が桜を目掛けて牙をむく。

白虎が鬼に食らいつく。


「グ阿ぁアァァぁ!!!コの獣メッ!邪魔スルなァァ!!!死ネェェェ!!!!!!」


以津真天イツマデが白虎を強烈に叩きつける。

白虎が激痛に咆哮ほうこうする。

たまらず桜が叫ぶ。


「白虎!!!」


桜が鬼を見据える。


以津真天イツマデやめなさい!!!こんな事をしてもあなたは報われないわ!!!」


「黙レ、オンナァ!!我ニ命令ヲ許さレルのハ憂流迦ウルカ様ノミィィィ!!!!!」


鬼が容赦無く桜に牙をく。


「桜ちゃんに手を出すな!!!!!」


すぐに昴が鬼のつらを刀でりつける。

しかし、鬼の尾が鋭く振り回される。

鈍い衝撃音が響く。


「うあぁあああぁぁああ!!」


桜を庇った昴が叩き飛ばされる。

昴の体が大地に強く叩きつけられた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る