第五十一話 火球の衝撃<中編>

一行は再び馬を走らせて南の朱雀すざく塚を目指す。

そして、塚の手前まで来た時だった。

前方に鎧兜よろいかぶとの兵士たちが視界に入る。

歩兵もいれば騎馬隊もいた。


--あいつらは・・・!!


なぎが相手方をざっと試算してみても数百騎はいる。

鎧兜よろいかぶとの男が大声で叫んだ。


「お前らぁ!どこへ行くつもりだぁ!?この先は通さねぇぞ!!」


凪が前方をにらみながらすばるたちへ馬を寄せて話す。


「・・奴らは先の戦で生き残った敵軍の残党だ。戦が終わっても未だ各地で小競こぜり合いが起こり、今もなお俺たちの国へ攻め込もうと考えている・・。」


凪は敵を目視で確認してから話を続ける。


「・・そのかたわらで、奴らは貧しい農村や旅人を襲っては略奪や殺人を繰り返している。戦が終わったとはいえ、以前にも増して治安が悪くなった。そのほとんどが雑兵ぞうひょうの集まりだが、油断はするな!」


鎧兜よろいかぶとの男が再び叫ぶ。


「・・おやおやぁ??女がいるなぁ・・・。おい!お前らぁ!!そこの女を置いて行けぇ!!そうすれば見逃してやる!!」


凪がおうかばうように前へ出て刀を抜く。


「ここを通してもらおう!!さもなくば、この俺がお前たちの相手をする!!」


昴と双子も刀を抜き身構えると、鎧兜よろいかぶとの男が罵声ばせいを浴びせる。


「はっ、たったそれだけの人数で俺たちに勝てると思っているのかぁ!?」


「試してみるがいい!!!」


「馬鹿めぇ!後悔させてやる!!」


鎧兜よろいかぶとの男の号令とともに敵の残党兵が怒号をあげる。

雑多な叫び声が呼応してその場の空気をビリビリと震えさせる。

桜は迫る敵の叫び声に気圧けおされまいと、しっかりと手綱たづなを握り締め両目を見開いた。

その時、み渡る清らかな一声が響く。


「待たれよ!!!」


--誰だ!?


突然、叫ぶ大声とともに、凪たちと残党軍の間に颯爽さっそうと割って入る者が現れた。

頭に白い袈裟けさを巻いて顔を隠し、黒いころもに首から大きな数珠じゅずを下げている。

威風凜然いふうりんぜんと手に持った大きな薙刀なぎなたを振るいあげると、声高くきりりとした女の声が叫ぶ。


「残党兵ども!!お前たちは我ら山法師やまほうしが相手をするぞ!!!」


「くそぉ!いきなり何の真似まねだぁ!!あまの僧兵が、邪魔しやがってぇ!!!」


「女をめるな!!さあ!皆の者!!参るぞ!!!」


尼が叫ぶと、後ろに控えた僧兵たちが一斉に怒号をあげ、訓練された屈強な騎馬隊きばたいが機動的に駆け出す。

かくして、戦いの火蓋ひぶたが切って落とされた。

すぐさまビュッという音とともに数本の矢が桜を目掛けて飛んでくる。


「させぬ!」


尼が大きな薙刀なぎなたを振るい次々と矢を叩き落とす。


「桜姫様!!ご無事か!?」


尼僧にそう様・・、ありがとうございます!」


そして、尼が昴に向き直る。


「昴様!!我らは寺からせ参じた僧兵でございます!!ここは我らが引き受けます!!早く大蛇オロチのところへお行きくだされ!!!」


そう叫ぶと尼は馬をひるがえして戦乱の中へいさましく飛び込んで行く。

凪が振り返って叫ぶ。


「俺が先陣を切って走る!!行くぞ!!!」


凪の馬を先頭に桜が続いて混戦の中をけ抜ける。

昴が叫ぶ。


「桜ちゃん!!なるべく姿勢を低く保って凪の後について行って!!!」


「はい!!!」


双子も叫ぶ。


「桜姫の四方は我々がお守りいたします!!!」


目の前でられた残党兵の血飛沫ちしぶきが地面を赤く染める。

血だらけの敵兵がうめき倒れる光景が目に入る。

桜は目をおおいたい現実を必死にこらえて前を向く。


「私は、前に進むんだ!!!」


風を切って矢音やおとが迫る。

飛んでくる矢を昴が刀で叩きる。

横から残党兵の槍や刀が振り下ろされ双子が応戦する。

馬のいななきが力強く響く。

前から迫る残党兵を凪の馬がひづめり飛ばす。


「このまま突っ切るぞ!!!」


凪たちが僧兵と残党兵の入り乱れる戦場を駆け抜けていく。

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