第四十五話 迷子の童<番外編・三>

すばるは、子猫のような姿から大きな虎に変化へんげした白虎びゃっこの背中に乗る。


「ふぉふぉ。ワシらが森の入り口まで送ってやろうぞ。」


「そうだな。坊主一人じゃ、また変な方向に行っちまうかもしれないしな・・。」


ガマの言葉を聞いてに昴が元気良くお礼を言う。


「ガマのおじさん!心配してくれてありがとう!!」


「べ、べつに心配してるわけじゃねぇよ!!」


顔を赤くして照れたガマに昴が「ふふ」と笑う。

やがて、玄武げんぶとガマに見送られながら森の外へ出ると、父親たちがいる場所へと戻ってきた。


「おとーさーん!!」


「おお!!昴!!どこに行ってたんだ!!心配してあちこち探してたんだぞ!!」


昴が父親の胸に飛び込んで抱きつくと、ひょいっとかかえ上げられる。


「まったくお前ときたら・・。大方、虫とか動物とか気になるものを見つけて追いかけて行ったんだろう?」


「うん!あのね、キレイなちょうちょを追いかけてたら、でっかいカエルに出会ったんだ!あとね、おじいさんにも会ったんだ!」


「ん?何を言ってるんだ??・・まったく、お前ときたら・・。あまり心配をかけるんじゃないよ。」


父親が苦笑しながら昴の頭をでる。


「それでね!ガマのおじさんは川や沼の水が汚されたことに怒ってるんだ!だから、水のお掃除をすれば許してくれるよ!」


「ん?ガマのおじさん??」


すると、父親の足元で小さな白虎が刀をくわえて座っているのが視界に入る。


「これは・・、白虎!それに、その刀は・・。」


「さっきね!おじいさんにもらったんだよ!それにこの白い猫みたいな動物も友達にしてくれたんだ!!さっきまでは大きかったんだよ!」


小さな白虎が刀を置いてナアナアと鳴く。

昴は父親の腕から器用に降りると、ふわふわの生き物を抱きしめた。


「そうだ!お前の名前は小虎にしよう!!小さい虎みたいだから小虎だよ!!」


昴が嬉しそうに小虎のお腹に顔を埋める。

それから昴は父親に森であった出来事を話した。

父親は昴の会った老人が玄武という四神であることや、刀が妖刀白虎であることを理解するとあやかし退治を中止することに決めた。


「お前たち!本日の妖退治は中止だ!此度こたびの街での妖騒ぎはガマの仕業であったが、どうやら原因は水質汚染のようだ。そうと分かれば明日にでも人足にんそくを送って川や沼の掃除と整備をさせよう。これから私たちは依頼主のもとへ向かってこのことを報告する!」


父親の部下たちは返事をすると急いで魔方陣の片付けを始めた。


「昴、よくやったぞ!これで一件落着だ。」


父親は嬉しそうに昴の頭を撫でた。


「よかった!・・それと・・、おとーさん、あのね・・。」


「うん?何だい、昴?」


「ガマのおじさんのところへ食べ物を持って行ってもいい?ずっと何も食べてなくてお腹がペコペコなんだって。だから、さっきは僕を食べようとしたんだよ!」


「なんだって!?昴を食べようと・・。って、お前は全然怖がってないのか?」


「うん!だってガマのおじさんはやさしいカエルだから!」


父親があきれたように笑う。


「・・そうか、わかった。それに、玄武に会ったんだろう?お前ってやつは本当に不思議なわらしだな・・。父さんだって玄武には一度も会ったことがないんだぞ。それに、白虎を専属の式神に従えるなんて・・。」


「白虎じゃなくて小虎だよ!!」


昴がぷくっと頬をふくらませて可愛らしく抗議する。


「あー、わかったわかった。小虎だね。」


再び父親が呆れたように笑うと息子の頭を優しく撫でた。

その後、昴は父親と一緒にたくさんの食べ物を持ってガマのもとへ訪れた。

お腹がペコペコだったガマは大喜びで食べ物を食べる。


「ガマのおじさん、美味しい?」


「おう、こりゃ旨いよ!食べたことのない味だねぇ!これはなんていう食いもんなんだい?」


「ふふ、これはね、饅頭まんじゅうっていうんだよ!僕の大好物なんだ!」


「饅頭か!甘くて美味しいねぇ!」


ガマとその仲間たちは昴たちの持ってきた饅頭を幸せそうに食べた。

昴と父親もその一つを頬張ほおばると美味しそうに食べる。


「ねえねえ、ガマのおじさん。また遊びに来てもいい?今度は僕の友達も連れて来たいんだ!」


「おう!いいよいいよ!みんな連れてきなさい。」


ガマが笑う。

昴と父親も笑う。

そして数日後、人足たちの働きで水質汚染が改善され始めた。

完全に元通りになるにはもう少し時間がかかりそうだが、その間はガマたちも他の沼地に引っ越すことになった。

ガマたちの引越しを昴たちも手伝う。


「昴、本当にありがとうよ。お前さんのおかげで仲間と一緒に生き延びることができるよ。しばらくはもとの住処すみかには戻れねぇが、またこっちの沼地まで遊びにおいで。」


「うん!わかった!!またみんなで遊ぼうね!!」


昴が笑いガマたちが笑った。

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