第四十一話 大蛇の復活<五>

なぎは叩きつけられた痛みにうめきながらも起き上がろうとする。

だが、すぐに大蛇オロチが体当たりを仕掛けてくる。


「若様!!!」


白丸が大蛇オロチの頭を斬り落とし凪を助ける。

しかし、別の巨体が体当たりで襲いかかってくる。

白丸が大蛇オロチの攻撃を喰らう。


「ぐわっ!!」


「白丸!!」


凪が地を蹴り、白丸を襲った大蛇オロチを叩き斬る。

ふと、後方のすばるが視界に入る。

昴は首を締め上げられ、今にもられそうになっていた。


--昴!!!


「白丸!黒丸!俺は昴を助けに行く!!お前たちは大蛇オロチを!!!」


叫ぶやいなや凪が昴のもとへ急駛きゅうしする。


「昴!!お前を殺してすべてを僕のものにする!!これが僕の愛の形だ!!!」


憂流迦ウルカが昴を斬り落とそうとしたその時、


「させるか!!」


凪が閃光せんこうのように蛇を斬り裂き、憂流迦ウルカの刀を受け止めた。


「凪・・。」


そうつぶやいた昴の体が地に崩れ落ちる。

憂流迦ウルカが凪をにらむ。


「凪君・・、こんばんは。」


天狗てんぐ!!」


「僕は憂流迦ウルカだ!」


凪が憂流迦ウルカふところへ素早く入り、右手の刀で斬り上げる。

刀は弾き返されるが、続け様に左腕の刃を振り下ろした。

憂流迦ウルカが刃を受け止める。


「凪君、この前の僕は僕の形をした人形ひとがただ。前と同じようにいくと思うなよ!!」


そして、憂流迦ウルカの猛攻が始まる。

次々と振り落とされる憂流迦ウルカの刀を凪の二刀流が弾いて防御する。

凪は憂流迦ウルカの激しい攻撃をを弾きながら後ろへジリジリと追いやられた。


「俺はお前になどに負けはしない!!」


次の間合い、その一瞬の隙を突いて右手の刀が憂流迦ウルカの刀を弾き、左腕を斜めに斬り上げた。

憂流迦ウルカの胴から胸が斬り裂かれ黒い血が飛び散る。


天叢雲剣あまのむらくものつるぎ・・、目障りだ!!」


それでもひるまない憂流迦ウルカが刀を振り下ろす。

凪が受け止める。

すぐに昴が横から強烈な足払いをかける。

憂流迦ウルカが倒れる。


「目障りはお前なんだよ!!」


「昴!君は僕を斬れない!!」


昴の刀が憂流迦ウルカの喉元に突き立てられそうになる。

その寸前すんぜん憂流迦ウルカ籠手こてで攻撃を受け止め、地を蹴り後ろへ体をらすように飛び退しさる。

昴が刀を降り憂流迦ウルカを追い詰める。


憂流迦ウルカ!!これで終わりだ!!!」


「!!!!」


妖刀白虎が一閃いっせんした。

胴が真っ二つに斬られ、憂流迦ウルカが鈍い音を立てて地に倒れる。


「あああぁぁぁ!!!痛いぃ!痛いぃぃい!!」


昴が刀を振るい上げ、のたうち回る憂流迦ウルカにとどめを刺す。


「ぐぁあ゛あ゛ぁぁぁあ阿阿ぁアアァァァ!!!!!!!」


昴がその首をき斬った。

憂流迦ウルカの体から黒い血がドクドクと流れ、地面が暗黒に染まっていく。

痙攣けいれんしたむくろがビクビクとのたうち回った後、弱くうねって止まる。

黒い血で染まった憂流迦ウルカが白目をむく。

すると、前方から斬られた大蛇オロチの頭がボタボタと落ちてきた。


「昴!!大蛇オロチに向かうぞ!!!」


「ああ!!!」


凪と昴が大蛇オロチへ向かって激走する。

前方で恐ろしい巨体をくねらせた大蛇オロチが絶叫を上げた。

大蛇オロチとぐろの中心では、その心臓を目掛けて双子が何度も刀を突き刺している。

のたうち回る大蛇オロチ咆哮ほうこうしながら地に頭を叩きつける。

大地に激震が走る。

凪が叫ぶ。


大蛇オロチ!!これでとどめだ!!!」


二人が激走する。

凪が宙を舞った、昴がきりの構えで突っ込む。

凪が渾身こんしんの左腕を大蛇オロチの心臓に叩きつけ、昴が妖刀白虎を突き刺した。


「!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


大蛇オロチの絶叫がこだまする。

八つの頭が暴れまくり、苦しみに叫びながら何度も地に頭を叩きつけた。

大地を削る衝撃音が鳴り響く。

しかし、やがてその巨体は痙攣けいれんをはじめる。


「殺ったのか?!」


凪がドクドクと黒い血飛沫ちしぶきを垂れ流す大蛇オロチの心臓を見据える。

赤黒い邪悪な心臓が痙攣けいれんしながら、その脈動が弱くなっていく。

首がだらりと垂れ下がり、巨体が地鳴りとともに地に伏せ落ちてきた。

凪が叫ぶ。


「ここは危ない!!離れるぞ!!」


全員がその場を一旦離れる。

目の前で、生気を失いつつある大蛇オロチの巨体が次々と倒れてはズドンと大地を削る衝撃音が響き渡る。

凪が左腕をゆっくりと下ろしながら口を開いた。


大蛇オロチが死んでいく・・。」


弱々しく痙攣けいれんを繰り返す大蛇オロチが最後の力で体をうねらせている。

やがて、大蛇オロチのうねりが止まると辺りは静寂に包まれる。

ふと気がつくと、いつの間にか雨に変わった闇夜を強い風が吹き荒れていた。

木々がしな垂れながらザワザワと不気味に揺れる。


「・・これで終わったのか。」


しかし、静寂を打ち破るかのように嫌な気配が一気に奥宮おくのみやを包囲した。


「!!」


凪たちがその気配の方へ視線を向ける。

すると、二つに割れた憂流迦ウルカの胴体から無数の蛇がウヨウヨとい出ていた。

蛇は互いに絡み合い、憂流迦ウルカの体を継ぎ合わせようとしていく。

そして、ゆらゆらと憂流迦ウルカの胴が持ち上がり、蛇の導線によっていびつに繋がれる。

次いで蛇は、憂流迦ウルカの首を求めて地を彷徨さまよいはじめた。


「お前、まさか・・。」


昴の言葉に憂流迦ウルカの生首が不適に笑う。


「やっと気がついた?」


蛇の導線が憂流迦ウルカの首を捕らえると、胴と首を繋ぐように縫合ほうごうしていく。

無数の蛇で導線のように繋がれた憂流迦ウルカの首がしゃべる。


「僕は大蛇オロチを使役した・・。ただ、あまりにも大蛇オロチの力が強すぎた。だから、僕の魂を半分くれてやったんだよ。」


昴が叫ぶ。


「イカれ野郎が!!」


「・・ははは・・・、あはははは!!」


憂流迦ウルカが不気味に笑うと次々に蛇が大蛇オロチのまわりに集まっていく。

そして、大量の蛇がまゆのように大蛇オロチを覆い隠していく。

憂流迦ウルカ大蛇オロチが宙へ浮かぶ。


「今日はここで引き下がってやるよ!だけど、僕は昴を諦めない!昴のためにすべてをぶっ壊す!!そして、すべてを手に入れる!!凪君もその娘も全員皆殺しだ!!」


「逃げるのか!!!」


凪が叫んだ。

しかし、憂流迦ウルカ大蛇オロチが空高くのぼっていくと赤黒い炎に包まれる。

やがて、巨大な火球となり猛烈な速さで東の空へ落ちていく。

遠くの方から轟音ごうおんが鳴り響き、漆黒の闇夜が不気味に赤く染まった。

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