第三十八話 大蛇の復活<二>

妖艶ようえん天狗てんぐがニヤリと笑うと口を開いた。


「・・久しぶり、すばる。」


天狗が第二撃を振り下ろす。

昴が刀で受け止め、二人がにらみ合う。


「・・うぜえよ、お前。」


「酷いなぁ。昴はいつも僕に冷たくする。」


「俺はお前を許さない!」


「何を?」


天狗が不適な笑みを浮かべる。

昴は刀で天狗を押し退けるとすぐさま斬り上げる。

天狗がはじく、昴が再び一閃いっせんする。

二人の剣戟けんげきの音が続き、今度は天狗が昴の刀を受け止めた。


「ふざけんな!!お前が椿つばきを殺した!!」


「僕は何もしていない。大蛇オロチが殺った。」


再び激しい鍔迫つばぜり合いと刀の応酬が始まる。

昴が思い切り刀を振り落とし、天狗が受け止める。

昴が叫ぶ。


「お前の部屋に『最後の禁忌の書』があった!お前は晴明せいめい様の予言を知った!そこに記された災を現実のものにしようと黄泉よみの国から大蛇オロチを呼び出した!!娘をかばった椿をお前と大蛇オロチが殺した!!お前以外に誰がいる!!」


「さあ・・。証拠がないからねぇ。」


「外道が!!!」


剣戟けんげきの音が鳴り響き、再び刀と刀で押し合い睨み合う。


「・・・まぁ、昴が聞きたいっていうなら教えてあげてもいいよ。冥土めいどの土産にね。」


「何が目的だ!」


「昴を僕のものにするため。」


昴は表情を変えずに睨み続ける。


「僕はあの椿っていう女が憎らしかった・・。愛する昴を僕から奪ってちぎりを結んだんだ。」


「糞野郎!」


昴が鋭い一刀いっとうを振り下ろし、天狗が受け止める。


「だから僕は朝廷で昴よりも出世して関白を取り込み、間接的に帝も取り込もうと考えた。そうすれば何でも僕の思い通りさ。昴も僕のものになる。だって、関白や他の政務者たちは陰陽師が言うことなら何でも信じるからねぇ。だから奴らを利用してやろうと思った。だけど、まつりごとの場面ではことごとく昴に論破されて僕の目論見もくろみは中々実現しない。・・・さすがは昴、僕をぞくぞくさせる。」


天狗はめるように昴を見つめる。


「だけどね・・、ある日僕は安倍派陰陽師の男と密通することに成功する。安倍派陰陽寮では昴の監視用の式がウヨウヨいるから中々接触できなかった。だけど、辛うじて一体の監視を焼き払うことができたんだ。僕は男に接触する・・。抱いてやったんだよ、昴のために。そしてあの禁忌の書を持ってこさせたんだ。愛って尊いよ!」


「誰だ、その男は。」


「もういないよ。僕が抹消した。あの事件に乗じてね・・。」


天狗が喉の奥を鳴らして笑う。


「そして僕は安倍晴明あべのせいめいの予言を知る。認めたくないけど晴明は最も力のある陰陽師だった。今でもその伝説は語り継がれるくらいにね・・。そこで僕は思いつく。大蛇オロチを呼び起こして己の力にする。そうすれば、まつりごとで関白たちを取り込まなくても奴らを思い通りに動かすことができる!恐怖と破壊を手に入れてすべてをぶっ壊す!そして僕がこの国の頂点に君臨する!」


天狗の顔が昴に近づく。


「ああ・・、でも大方、昴の推論通りさ。昴は僕のことを何でもお見通しなんだね。僕を想ってくれている・・。」


「うぜえ!!」


昴が凍てつく霊気で刀を振り下ろすと天狗の顔に亀裂が入る。

すると、その能面が真っ二つに割れ落ちた。


「・・妖刀白虎、切れ味が最高だ!」


顔半分が蛇のうろこおおわれた男が不適に笑った。


「本気でうぜえんだよ!!憂流迦ウルカ!!」


再び昴が刀を振るい、憂流迦ウルカが返す。


「愛しい僕の昴。」


間髪入れずに憂流迦ウルカが刀を振り下ろし、昴が受け止めた。

憂流迦ウルカは刀と刀の間から昴へ手を伸ばし、そのあごをすくいとる。


「本当に・・、昴は美しいよ。・・見ているだけで、イキそうだ。」

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