第三十四話 丑の刻参り<前編>
その後、私たちは山道に入り京の北側を通ってから
「やっとついたー!みんな大丈夫?」
そう言って
「俺たちは大丈夫だけど、桜は平気?かなり疲れたんじゃないか?」
「・・・いいえ、大丈夫です。」
私は久しぶりの乗馬で疲れを感じていたものの、
すると、昴様が私を気遣う。
「・・あともう少しで着くから、着いたら
昴様が馬を降りて
私たちも同じように馬を降りて、一緒に馬に水をやったり
そして、段々と辺りに
「ここから石段を登った先に
昴様は
私と凪様がその後ろに、私たちの後ろに白丸様と黒丸様が続く。
石段の両側には赤い
そして、灯籠の
私は抱えた小虎に少し身を寄せて薄暗い階段を一歩ずつ登っていく。
「人の気配がまったくありませんね・・。」
白丸様と黒丸様が辺りを見回しながら小さく言う。
すると、前を行く昴様が答えた。
「今日は御所の歌合わせがあるから、ここの人たちもみんな駆り出されているんだよ。だから、誰もいないし『儀式』を
「伯父上、その『儀式』とは何をするのですか?』
白丸様が昴様に問いかける。
「
「鬼・・・。もしかして
今度は黒丸様が
「陰陽道のイロハに沿えばその通り。だけど、ものは考えようなんだよ。つまり、鬼を呼び出して使役しようが逃そうがそれはこちらの自由ってこと。俺は
--
私は昴様の言葉を聞いて背筋が凍っていくような感覚に
手が震える。
そして、迷いが生まれる。
--私は自分の心を決めたはずなのにまだ怖いと思っているの?
「桜、大丈夫だよ。」
ふいに凪様が私の背に手をあてると、その温もりが背中の強張りを柔らげた。
小虎がおもむろに私の肩へのぼり、首巻きのように
小虎の柔らかいお腹のあたりが首筋にあたって温かい。
すると、凪様が私の手をしっかりと握って話す。
「俺たちがいるから大丈夫。」
「我々もいます。」
昴様が「ふふ」と笑う。
「桜ちゃんのまわりには、みんながいるから大丈夫だよ。」
言葉の一つ一つに皆様の温かさを感じる。
そして、私は戸惑いながらも自分の気持ちを正直に話し出す。
「・・それでも私は、覚悟を決めたはずなのに迷ってしまうのです。」
私が凪様の手を握り返すと、凪様が優しく微笑んだ。
「迷うのは当然だ。俺も戦場で何度も心に迷いが生じた。だけど、弱い自分の心の奥にある本当の自分の気持ちを探すんだ。『俺は本当はどうしたいのか?』それがわかれば自ずと答えが出る。桜は本当はどうしたいの?」
--私は・・。
「・・私は生きたい。
「怖いと思うのは仕方のないことだよ。逃げ出したい気持ちもわかる。だけど『生きたい』と思った気持ちも本物だ。それが桜の心の弱さの奥にある本物の強さだから。自分の本当の気持ちを大切にするんだ。」
凪様の温かい手が私の手を握り返す。
「桜は自分が思うよりもずっと強いんだよ。」
「若様の言う通りですよ。それに桜姫は一人ではありません。若様や伯父上や我々がいます。我々は桜姫をお守りします。必ずお約束しましょう。」
白丸様と黒丸様が私を勇気づけようとしてくれる。
すると、昴様が背を向けて先導をしながら私に語りかける。
「桜ちゃんが生きることが俺たちの望み。桜ちゃんも俺たちと生きるために
私は昴様の広い背中を見つめる。
「・・皆様。そうですね、心の弱い自分がいるのは確かです。だけど、生きようと思う自分もいます。それは恥じることではないのですね。」
「そうだよ、桜ちゃん。」
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