第三章
第三十二話 旅立ち<前編>
出発の日がやってくる。
早朝の
すると、
「皆さんお早いね。お待たせしたかな?」
「皆様、おはようございます。」
昴は陰陽師の独特の旅装束を身に着け、腰には刀を挿している。
一方の桜は眠そうな小虎を抱えながら女性用の陰陽師装束に身を包んでいる。
そして、美しい髪を後ろで綺麗に
「昴、桜、おはよう。それに桜、今日は雰囲気が違うね。」
「ふふ、いつものような格好でしたら馬には乗れませんから。」
「似合ってるよ。」
「ありがとうございます。・・でも、これでは髪を
--え・・?
凪は聞き返そうとするが、桜は「ふふ」と遠慮がちに微笑んでから馬に乗ろうと向こうへ行ってしまう。そして、彼女はあまり慣れていないような動作でふわりと馬の背に乗った。
全員が馬に乗ると昴の話を聞く。
昴が言うには、京の北の山奥で『儀式』を行うことになっていた。
馬の
「儀式は夜遅くに行うから、今から行っても早目に到着すると思うよ。とはいっても、いろいろと準備があるからあまりゆっくりもしていられないけどね。」
「わかりました。」
昴の話に桜が素直に答えた。
続けて、凪が桜に問いかける。
「それにしても桜が馬に乗れるなんて驚いたよ。馬に乗れる姫君なんて聞いたことがない。」
すると、前を行く昴が答える。
「桜ちゃんは小さい頃から馬に乗ることができたよ。俺がよく外に連れ出していたから教えたんだ。」
「そうなのか・・、珍しいな。俺は男だし武家に生まれたから馬に乗ることなんて物心ついた時から教え込まれたけど、姫が馬に乗るところなんて見たことがなかったよ。せいぜい牛車くらいだ。」
「一般的にはそうだよね・・。」
昴は何かに想いを巡らせるようにしてから話し出す。
「これは俺と
昴が後ろにいる桜へちらりと視線を送り微笑む。
「だから、俺たち夫婦は桜ちゃんが興味を持つことをできるだけやらせてあげたんだ。」
桜が昴の話に続ける。
「そうでしたね・・。昴様が外出なさる時はよく私を『お供』として連れ立ってくださいました。」
「ふふ、そうだね。だけど、そうはいっても女の子が馬に乗っているところなんか見られたら公家の奴らに何を言われるかわからない。だから、桜ちゃんには男の子の格好をさせて顔が見えないように深く編んだ笠を被せたよ。これなら多少疑われることがあっても、一言『疑うなら呪うぞ』って言えばみんな逃げちゃうし。こういうのって、陰陽師の特権だよねえ。」
昴が面白そうに笑う。
「私が笛を好むのも、昴様と外出した時に外で吹けるからです。部屋の中と違って、広々とした草原や美しくゆったりと流れる川を眺めながら吹く笛の音は自然と一体化したようで本当に素晴らしいものです。よく昴様も隣に座って私の笛を聴いてくださいました。」
すると、白丸と黒丸が声を揃えて桜に話しかける。
「桜姫の笛は幼き頃にお会いした際、一度聴いたことがあります。とても美しい音色でした。」
「ありがとう。お二人とお会いするのはお久しぶりですね。あの頃からお二人はいつも仲がよろしい。」
桜が振り返って双子に微笑んだ。。
すると、黒丸が
「あの頃は・・、仲が良いのは我々には他に頼れる人がいなかったからというのもあるかもしれません・・。それでも今は若様たちがいらっしゃいますし、桜姫ともこうやって再会することができて嬉しい限りです。」
黒丸の後に白丸が続ける。
「そうですよ!私も弟も桜姫とまたお会いしたいと思っていたのです。・・そういえば!桜姫とは以前お会いした時に
「ふふ、そうですね。お二人共とてもお上手で、私にも丁寧に教えてくださいました。」
「いえいえ、桜姫はすぐにコツを
凪が桜に笑いかける。
「
すると、昴が続ける。
「まさにその通りだよ!!桜ちゃんは時々、予想外のことをするからね!昨日だって・・!!」
昴は何やら嬉しそうにぶつぶつと独り言を
「皆様、私のことを買い被りすぎです。でも、皆様と一緒に
桜が
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