第二十〇話 星の授け給ふ櫛<後編>

「そして、最後の書・・。最後の禁忌の書は、俺もどこにあるのか中々見つけ出せなかった。書庫も金庫室も親族やゆかりのある神社仏閣まで、ありとあらゆるところを全部ひっくり返してやっと見つけた。」


すばる様の言葉の後になぎ様がたずねる。


「どこにあったんだ?」


「・・うん、まあ、・・最悪な場所にあったんだけどね。」


昴様は言葉をにごした。

再び話を続ける。


「・・最後の書には新月と五芒星ごぼうせい、そのもとに誕生する命と未来について記されてれているんだけど・・。月や星といった天文で定められた事象というのは普遍の真理。なぜなら、月の満ち欠けや星の配置も一定の法則性の中で繰り返しているし、算術で導き出せるからだよ。決まり事なんだ。」


昴様が「そして」と続ける。


「桜ちゃんは天文の法則性の中の定められた特別な日、新月と五芒星の重なる日に生まれた。だから『くし』になる。」


「昴様・・、どうして私が『櫛』になるのですか?」


私は昴様の言わんとすることが飲み込めずに素直に疑問を口にした。


「書の最後で晴明様が星読みをされている。そこでは桜ちゃんの誕生と未来を占っているんだ。」


--未来?・・私の未来?


「未来について晴明様はこう記している。それは--」



『新月の五芒星より金色の印を給ふ後胤こういんくしと為り、日より剣を賜わる使ひと災を払ふべし』



--新月の五芒星から金色の印を授かる子孫が櫛となり、天照大御神あまてらすおおみかみ様から剣を授かる神の使者と共に災厄を払うだろう。


--・・『金色の印』って。


凪様が驚いた顔で昴様を見る。


「それって・・、俺の家に伝わる口秘こうひにすごく似てる・・。」


「うん、恐ろしいくらい酷似している。」


昴様も凪様へうなずき返し、今度は私のほうへ視線を送る。


「『金色の印』という言葉は桜ちゃんの胸に刻まれた五芒星のあざのことを指しているんじゃないかな。」


「私の胸の痣・・、左胸の・・。これは生まれた時からついていたと母様からお聞きしたことがあります。だけど、体に痣があるのはみにくて好きになれません。」


私は自分の左胸に手を置いて痣の存在を改めて感じてみる。

痣は生まれた時から私の左胸に刻まれていて、その部分だけくっきりと黄金くがねの五芒星が描かれている。意識するとその部分だけが熱くなってくるような熱量を感じた。


「そんなことないよ。桜ちゃんの痣は綺麗だ。『生まれつき』ある痣というのは、生まれる前に神様が授けてくださったものだということだよ。それに、その痣は。なぜなら、それは桜ちゃんの持っている特別な力を証明しているからだよ。大蛇オロチが襲ってきたあの日、その力を使おうとした桜ちゃんの五芒星から--」


私は昴様の言葉をさえぎった。


「でも、私はその力を制御することができませんでした。力があっても何もできなかったのです。」


--私には本当に力があるの?・・あの日、私は何もできなかった。巨大な力に翻弄ほんろうされるだけで精一杯だったのに、力なんて・・。

--・・だから私は、あの力の代わりに封印の呪を使った。大蛇オロチを封印して昴様を助けるために。


「できるよ。」


昴様が真剣な顔で私にはっきりと言った。


「俺は桜ちゃんが生まれた時からずっと、その痣とそこに秘められた力について調べ回っていたんだ。そしてついにその真実を突き止めた。」


「真実?」


私の左胸の痣がわずかに熱くなる。


「そう、新月の夜に星の配置が五芒星になる日というのは数億光年の奇跡。その日に生まれた桜ちゃんの持つ痣は四神獣の中心、黄竜こうりゅうの証なんだよ。」

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