第二十一話 重なる言霊

大蛇オロチ蘇る時又神に剣を賜わらん、星の授け給ふくしと共に、汝其剣を以て大蛇を討ち果たせよ』


『新月の五芒星ごぼうせいより金色の印を給ふ後胤こういんが櫛と為り、日より剣を賜わる使ひと災を払ふべし』


二種の言葉を並べながらなぎが口を開く。


「二つの言霊ことだまが重なった。偶然というには不気味なほどに。だけど、どうしてすばるがうちの『口秘こうひ』を知っているんだ?だって、家督を継ぐ者しか知らないことだよな?」


「ああ、それは偶然に聞いたからだよ。」


昴が館のあるじに視線を送って少しの笑みを浮かべる。


「凪は自分の元服げんぷくの儀で巫女みこが踊ったのを覚えている?あの日の祭事を任されたのは俺なんだ。巫女の祝詞のりとや俺の祈祷きとうについて大殿に尋ねた時に、大殿から『災の象徴である天叢雲剣あまのむらくものつるぎ』を示唆するようなことを言われた・・。それがずっと心に引っかかっていてね。」


すると、館の主が感心したような困ったような顔で昴に言葉をかける。


「さすがは昴だな。気付かれないだろうと思ったものの、私もあの時は少し迂闊うかつだった。言ってしまった後でひやりとしたよ。」


昴は笑みを浮かべて顔を振る。


「その後、おうちゃんのところに大蛇オロチが現れた。さらにその後に最後の禁忌の書を見つけた。そして、そこに記された晴明せいめい様の予言を見つける。点が線で繋がった気がしたよ。」


「その予言を見つけた昴が、私のところを訪れてはしつこく聞かれたよ。私も口秘を言うわけにはいかなかったのだが、安倍晴明あべのせいめいがいかに優れた陰陽師おんみょうじだったかということはこちらも知るところだ。」


主があごに手を置いておかしそうに笑う。


「その陰陽師が予言した内容と我がいえの口秘があまりにも似通っていることに奇妙な縁を感じてな。ついに口を割ってしまったよ。」



--だけど、もう一人そのことを知っている者がいるとしたら?


凪はもう一度 天狗てんぐの放った言葉を思い出した。


天叢雲剣あまのむらくものつるぎ・・。まさか君の体が絡繰からくり仕掛けになっていたとは。』



「・・昴と父上以外にそのことを知る者はいないのか?」


凪が確かめるようにたずねると、昴は凪の目を真っ直ぐに見つめて答えた。


「もちろん守秘義務はちゃんと守っているから誰にも言ってない。そういうところは職業病なんでね。」


今度は館の主が凪に話す。


「だが、凪が戦でその剣を使ったということも事実だ。剣に隠された真意は分からないにせよ、戦でその剣の存在を知った者はいるだろう。噂にはなるかもしれんな。」



--戦場で俺の左腕の存在を知った者。噂・・。



「とはいえ、その噂についてはどうとでもなろう。戦場での出来事だ。『気が張っておかしな幻覚を見ただけ』と言えばそれまでのことになる。実際に、剣は混戦状態の激戦地でしかほとんど使わなかった、と凪からも報告を受けている。そうであれば人目に触れたとしても問題ない。噂は噂にしかならんよ。」


すると、主の言葉を聞いた昴がぽつりと呟く。


「・・そうだといいんですけどね。」


「いずれにせよ、桜の体に封印された大蛇オロチは桜の命を削り、その命が力尽きた時に再びよみがえる。つまり、ということになる。それだけではない、やがて己を脅かすお前の剣を消すためにお前を殺しにくるだろう。そうだとすれば凪よ、お前はどうする?」


--俺がどうするのか?そんなこと、決まっている。


「父上・・、いえ、親父、俺は桜を守りたい。そのために大蛇オロチを倒す。俺の左腕が大蛇オロチを討つためのものであるならば、この剣で大蛇オロチを討ち取って必ず桜を守ってみせる!」

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