第十九話 星の授け給ふ櫛<前編>

「だけど、その剣だけでは大蛇オロチを倒すことはできないよ。『星の授け給ふくし』がいなければ。」


今度はすばる様が口を開く。

昴様のなぎ様に対する口調が穏やかになっていることに気がついて、私はほっとした。


「昴様、その『星の授け給ふ櫛』とは何なのですか?櫛・・?」


「その『櫛』っていうのは、おうちゃんのことだよ。」


「・・私?」


--どうして私なんだろう?


「なぜなら、桜ちゃんは新月と五芒星ごぼうせいの重なる定められた日に生まれた特別な命だから。」


昴様はそう言って不安そうな私の髪を優しく撫でた。


「俺たちの一族には陰陽術に関する古文書がいくつか残っていることを桜ちゃんも知っているね?」


私はうなずく。


禁忌きんきの術が書かれた古文書もその一つ。この書はご先祖様の安倍晴明あべのせいめいという天才陰陽師によって記されたものなんだ。そして、実は禁忌の術に関する古文書は三つある。三つが一つ。」


--三つ・・?


「桜ちゃんが見つけた古文書が一つ目、二つ目が禁忌の術を仕上げる『鎮めのしゅ』について、そして三つ目の古文書・・。そう、一つ目の古文書の続きの続き、最後の禁忌の書に『くし』に繋がる手掛かりがあるんだ。」


昴様は禁忌の術に関する書は全部で三つあると説明してくださった。

一つ目は、禁忌の術『封印の呪』について

二つ目は、封印の呪を完成させる『鎮めの呪』について

三つ目は、櫛の手がかりについて


--古文書が三つも連なっていたなんて知らなかった・・。

--あの時の私は自分の力すら使えずにいて何もできなかったから・・。

--だから、せめて自分のできることで、封印のしゅを使って、昴様を助けたいと思った。


「・・私、何も知らないであの呪を使ってしまったのですね。」


「桜ちゃん、それは気にしちゃダメだよ。俺は桜ちゃんの気持ちを無駄にしない。」


昴様が私の手をしっかりと握った。


「桜ちゃんが見つけた古文書は一つ目の禁忌の書、俺が金庫室からひっぱり出していた秘術書だよ。すぐに仕舞うつもりだったんだけど、他にも調べなくちゃいけないことがあって失念してしまった。俺のせいだ。」


「いいえ、昴様のせいではありません。」


私はその手を握り返すと、昴様が微笑む。

そして、今度は私の髪を優しく撫でてくれる。


「・・だけど、俺は桜ちゃんが続きを知らなくて良かったと思ってるよ。封印の呪を完成させてしまっていたら封印を解くことができなくなっていたと思うから。あの時、桜ちゃんがを使ってくれたおかげで、桜ちゃんの命が繋がったことも確かなことだよ。桜ちゃんの命は削られ続けているけれど、まだ『希望』は残っているからね。」


私を撫でる昴様の手が止まり、怒りのにじむ言葉をつむいだ。


「それでも、こんな言い方しかできないのは俺にとって屈辱でしかない。本当はあの場で俺が大蛇オロチを退治していれば良かったんだ。」


--昴様が悪いんじゃない。


「・・私は昴様を失いたくなかった。」


「・・桜ちゃん。」


昴様が優しく微笑んで再び私の髪を撫でた。

そして、凪様たちのほうへ向き直って説明を続ける。


「二つ目の書には封印を完成させる『鎮めの呪』が記されているはずなんだけど、残念ながら肝心なところが虫に喰われてしまって詳細がわからない。だから、『鎮めの呪』の方法は晴明様以外は誰もわからないんだ・・。」


昴様が一度息をついた。

そして、三つ目の書について説明をはじめる。

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