第二十三話 重ね合わせた願い<後編>

「私も今すぐ決めろとは無理には言わない。今まで戦と無縁だった娘には荷が重いだろう。だが、時間が無いことも確かだ。大蛇オロチはお前の命を今も削り続けているのだからな・・。大蛇オロチの封印を解くためには昴の用意した場所へ行かねばならない。出発は三日後、それまでに覚悟を決めなさい。」


私は御当主様の瞳の奥に強い意思を感じる。


「・・お前なら、できるよ。」


私は迷っている気持ちを隠すようにうつむきながらうなずいた。


おうちゃん・・。」


すぐにすばる様が気遣うように寄り添って、優しい手が私の髪をでてくれる。

御当主様が全員へ向き直って力強く話す。


「それと、みなに言っておくことがある。先の戦で我が国が勝利したとはいえ、痛手を追ったのはこちらも同じだ。戦力の多くが削られた。それに、各地で敵の残党が未だくすぶっていることも知っているだろう。国境付近では頻繁に小競こぜり合いも起こっている。今の状況で下手に軍を動かせば、再び大きな戦になりかねない。私は大蛇オロチとの戦いに軍を出すことはできない。お前たちだけで討伐とうばつに向かってもらう。なぜなら、私はこの国を治める当主。国と民を守ることも私の責務だ。」


御当主様がなぎ様を真っ直ぐに見つめる。


「凪、私を薄情な人間だと思うか?」


「いえ、薄情などとは思いません。父上のお考えは重々承知しています。それに、俺はどのような過酷な戦場でも勝利を手にしてきた男です。例え一人で大蛇オロチに立ち向かうことになろうとも迷いはありません。」


そして、凪様が最後にはっきりと言う。


「必ず勝ちます。」


「わかった。私はお前を信じている。」


御当主様がしっかりとうなずくと昴様へ顔を向ける。


「ついに、口秘こうひが現実となり私たちの先祖から続く願いが叶えられるのだな、昴。」


昴様は御当主様の意をていして凪様へ言葉をつむいだ。


「人から人へ伝えられる言葉には少なくとも人の意思が介在する。そして、人間の意思は『変化』の一つ。人が願えば変化が起きる。人の意思で未来は変化する。つまり、口秘には凪のご先祖様たちの意思が込められているんだ。『いずれ訪れる災を討ち果たし未来を手に入れろ』ってね。」


「未来を手に入れる・・。」


凪様が自分の左腕に視線を止めるとこぶしを作る。

昴様は話を続ける。


「凪の左腕の剣にはご先祖様たちがつないだ未来の希望が宿っているんだよ。」


--・・未来を手に入れる。


私は昴様の凪様へ向けた言葉を聞いて、自分の左胸のあざがじんわりと熱を帯びていることに気がついた。


「そういうことだ。凪、大蛇オロチを倒しお前自身の未来を手に入れろ。」


御当主様の言葉に凪様がうなずく。


「そして最後に・・、これはお前の父親として言わせろ。」


少しだけうれいを含んだ御当主様が凪様へ言葉を贈る。


「凪、必ずここへ戻ってこい。」


「はっ!必ず!この凪は大蛇オロチを倒し、父上のもとに必ず戻ると約束します!」

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