第十二話 赤天狗<後編>

なぎの左腕がつやのある白い蛇のうろこに覆われ、腕先から鋭いやいばが伸びていた。

刃は恐ろしいほどに鋭利にきらめき、霊妙れいみょう獰猛どうもうな戦いの化身が降臨する。

天狗が言う。


天叢雲剣あまのむらくものつるぎ・・。まさか君の体が絡繰からくり仕掛けになっていたとは。」


凪は右手の刀を素早く逆手さかてに持ち変えた。

次いで、天狗てんぐの刀と交えた左腕ごと押し退ける。

すぐさま間合いを詰め、右手に握った刀で鋭く一閃いっせんした。


「さっきから何を言っている!!」


紙一重でかわした天狗が跳び退しさり、着地と同時に地を蹴る。

天狗が凪の頭上を舞った。


「僕にとって凪君のその絡繰からくりでできた腕は非常に邪魔なんだよ!だからこれは僕がし折ってあげる!!」


頭上から跳びかかってきた天狗が凪を目掛けて刀を振り下ろす。

激しい金属音が鳴り響いた。


「くっ!」


凪が天狗の刀を受け止めて睨み合う。


「なぜ俺の左腕が邪魔なんだ!?答えろ!!!」


「知らないのか・・。そんな物騒なものを体に仕込んでおいて知らないなんて・・。」


天狗が不適に笑って凪を押しやる。


「じゃあ、教えてあげない!君だって知らない方がいいことがあるかもしれないよ!」


「ふざけるなっ!!」


凪の二刀流が天狗に猛攻を仕掛け、激しい刀のぶつかり合いが始まる。

ジリジリと追い詰めた左腕のやいばが天狗の右肩にめり込んで切り刻んだ。


「う゛ぇ!!」


天狗がうめいて蹌踉よろめくのも束の間、すぐに凪へ反撃する。

凪が応戦する。


「答えろ!!なぜ俺の左腕のことを知っている!!?」


「教えない!!」


金属の激しくぶつかり合う音が鳴り響く。

天狗が大きく後ろへ跳んで距離を開けたかと思うと、有無を言わさず垂れ下がった蛇が凪を喰らわんとばかりに襲いかかる。


「若様!!!」


双子が凪をかばうように回り込み、蛇を切り裂きながら天狗に向かって駆け出す。

それでも無数に広がる蛇の数が多すぎる。

蛇の群れが宙を素早く旋回せんかいし、凄まじい勢いで凪の体を目掛けて襲い狂う。


「僕に歯向かったご褒美をたくさんあげよう!!」


「くそっっ!」


大量の蛇が凪を囲み、斬っても斬っても絡み付いていく。


「黒丸!若様が!!」


「わかってます!!」


叫んだ双子が急駛きゅうしすると、凪に絡みついた蛇を同時に斬り裂く。

瞬時に双子は方向転換し、再び天狗へ向かって走り出した。

ちぎれた蛇を振り落とした凪も天狗のふところへ向かって走り込む。


「!!!!!」


天狗の身体がまたたきの内に斬られ、黒い血の雨が降る。

倒れた天狗を見下ろして凪が言う。


「こいつは一体、何者なんだ・・?なぜ俺を狙ってきた?」


凪が地に伏した天狗のむくろを調べようとした瞬間だった。


「・・・・・、そんなに知りたいの?」


「!!」


突然、口を開いた天狗の体がゆらゆらと影のように揺れた。

凪と双子が影から離れて刀を構える。


「お前は何者だ!!?」


天狗は凪の問いかけには答えず、奇妙な声で笑う。


「あーあ、残念、時間切れだ。だけど君たちは想像通りなかなか骨の折れる相手だと分かったよ。今日はここでお開きにしよう。」


「待て!!」


へらへらと不気味に笑う天狗の姿が一瞬 ゆがむと人形ひとがた呪符じゅふになり闇に舞い上がって燃え尽きた。


「あいつ、何者かの呪術で作ったまやかしだったのか・・。」


呪符の燃えカスがひらひらと地に落ちるのを見ながら、凪が吐き捨てるように言った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る