第35話
いつの間にか地図アプリを画面から消して、でかでかとタブレット上に現れている。
「……なんで、こいつもいるのよ」
『そりゃあ、私は都市伝説課のトップだし? 面白い話になってるみたいじゃない、首を突っ込まないわけにはいかないのよ、都市伝説課のトップとしてね!』
言い分は尤もだが、彼女の存在がこの場において益になるとは考えにくい。
てけがここにいるのを疑ったように、彼女がいる事で現状が掻き乱される可能性は大いにあっても、有益な情報を得て、事態が前進するとは思えない。昨日の夕方に見せた彼女の態度と口調は、百の中での評価すら落とすには十分だったのだ。
だから、百とターボは、トラブルメーカーの彼女が口を挟むより前に、さっさと話を進めるプランを選択した。少なくとも、てけが皮肉や悪口を言ったとしても、話が止まってしまわないだけまだましだ。
「はあ……とにかく、もう時間がない。敵の居所を探そう。百クン、何かあてはある?」
「あて、というか、おおよそここかなって思うところはあるよ」
「マジで? アンタ、キモオタみたいな見た目しといて、なかなかやるじゃない」
てけの悪口は、二人にも予想出来ていた。物事を邪魔するほどのものではない。
『そーお? 私はこーゆー子、結構タイプなのよね。特にさっきから、おっぱいからどーにかして目を逸らしてるように見えて、こっそりちらちら見てるとことか!』
この女性の言葉は、そうではない。
一体いつから百の視線を追っていたのか、ターボお姉さんの顔に貼られた表情つきの紙、その視線が細くなり、百をいやらしい視線で見つめた。
彼女曰く、女性経験の少ない語部百が、豊満な肉体をちらちらと見ていたらしい。彼女の胸元を見せつけるようなぴっちりとしたスーツや、一々揺れるような挙動を取る行動にも問題はある。見せつけようという意図もあったかもしれない。
だが、てけとリカにとっては、そんな意図は問題ではない。
女性の胸をちらちらと横目で見る、助平な男。
そんな人間に対する評価は、二人揃っていて。
「……語部さん……」
「……最ッ低……」
リカとてけ、彼女達はじろりと、百を睨みつけた。
さて、これで困るのは当然百だ。彼としてはそんなつもりはちっともないし、ターボお姉さんが話を混乱させる為に言ったのだとも分かっている。
それでも、話は進めなければならない。
二人のねめつけるような視線、ターボの同情する視線に晒されながら、百は言った。
「へ、変なこと言わないでください! それよりほら、意見を言いますから!」
そして、ターボお姉さんのビデオ通話画面を掻き消すように、地図アプリをもう一度起動させた。昼間に使ったように、伊佐貫市全体を表示して、かつ口裂け女の目撃地点を赤い点でマーキングしたものだ。
「とりあえず、昼と同様に目撃地点をピックアップしました。それに加えて、今日襲われたところも……これで九か所、口裂け女が現れた地点です」
百はそこに、夕方に遭遇した地点を指でタッチして、赤い点をつけた。
「そこから真っすぐ線を引いていきます。まずはここ……次にここ……」
話ながら、百はなるべく対角線上にある赤い点同士を、指で繋げてゆく。タブレット上では指に追従するように線が引かれ、地図を引き裂いてゆく。
一本、二本、三本。
本数が増えてゆくにつれ、その様子を見ている都市伝説達の表情が変わっていく。何をしているのか、という疑問が、奇妙な確信と、恐るべき真実への確定に繋がる。
「おいおい、これって」
ターボが問いかけるのと同時に、百は全ての線を引き終えた。
そして、ある一か所を指差しながら、百は答えた。
「うん、全ての目撃地点から引かれた線が、ある一か所で重なるんです。それがここ……よみ駅から少し離れた丘です。ここには、古びた一軒家があります。僕が子供の頃から空き家で、人が近寄りません」
百が指差したのは、全ての線が地図上で重なる、とある丘だった。
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