第21話
彼の質問は、都市伝説を知っていれば、もっともだった。
『三本足のリカちゃん人形』は、右と左の足の間にある、もう一本の足があるからこそ恐ろしいのだ。本来人間にないもの、またはあるものを怖れる手法を逆手にとった話の作り方で、ただのリカちゃん人形であれば、ここまで話が広まることもなかっただろう。
ただ、リカの外見上、そんなものは見当たらない。ごくごく普通、いや、一般的な女子高生より整った顔立ちとスレンダーな体形はリカちゃん人形そのものなのに、その一点が見当たらないことだけが、百の心に引っかかっていた。
ただ、その質問はターボ達からすれば想定の範囲内のようだ。ターボとてけは、意地の悪い笑みを浮かべた。それから同時にリカを見つめて、てけが言った。
「ああ、それね。リカ、見せてあげたら? 三本目」
「ふ、ふえぇ!?」
驚くリカに、ターボの追い討ち。
「いいじゃんいいじゃん、減るもんじゃないんだし! それに、これから先長い付き合いになるかもしれないんだし、隠し事をしてるってのも、オレはどうかと思うんだけどなあ」
「う、ううう……」
もじもじと、スカートを掴んで恥ずかしがるリカ。
もしかすると、百には言い辛い理由があるのかもしれない。
だいたい、仮に人間相手にそんな質問をするのかと言われれば、百の元来の性格を考慮しなくても、質問しないだろう。都市伝説への疑問を優先してしまい、相手の事情を考えなかったのを恥じながら、百が訂正した。
「え、その、三ツ足さん、ごめんね、嫌だったら無理しなくても」
だが、百が言い切るよりも早く、リカの手が動くのが早かった。
「こ、これ、『三本目』ですうっ!」
リカは、勢いよくスカートをたくし上げた。
そこにあったのは、リカちゃん人形にあってはならないもの。
いや、女性という性別を掲げている以上、あるとおかしな、不思議なもの。百からすれば見慣れたもの。
百の股間にぶら下がっているものと同じものが、リカのそこにもあった。
あると分かったのは、百にあってリカにないもの、即ち下着すらもそこにはなかったからだ。つまり彼女――彼と呼ぶべきか――は、人に見られないのをいいことに、スカートの下に何も履いていない類の都市伝説、でもある。
三本目を、その股にぶら下げながら。
足ではない、しかし人間に必要な部位をぶら下げながら。
「――――え」
驚愕する百を見て、リカは顔を真っ赤にしながら、スカートを元の位置に戻す。
当然だが、百は聞かずにはいられなかった。
「な、なんで、それついてるのに、スカート?」
「す、スカートは、か、か、風通し、良くって、癖になって、それで」
「あの、た、ターボ君、三ツ足さんって、まさか」
ターボは困惑する百を見ながら、扉を開けて、にこりと笑った。
「そう、そのまさか、さ。それじゃあまた、放課後にね。作戦はその時に教えるよ」
そう言って、ターボが先に物置を出た。
「ほら、さっさと行くわよ、リカ」
「う、うん……」
続いて、てけ、最後にまだ顔を真っ赤にしたままのリカが出て行った。リカが丁寧に扉を閉めると、残されたのは驚いたまま顔が固まった百だけになった。
呆然としながら、彼は思う。
自分はそれなりに都市伝説について知っているつもりだったが、それらは全て、情報の上で知っているだけだった。現実に、都市伝説を目の当たりにした時、自分などはまだまだ無知であり、知識だけをひけらかす三流と大差ないと。
この感動に似た感情を、何と言えばいいのか。
これから先も、ずっと、もっと凄い発見が出来るのか。
感動と興奮を一つにまとめ上げて、百の口から、言葉が飛び出た。
「すごいなあ、都市伝説って」
それ以上は、何もなかった。
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