第20話
「あ、そうだったね。とりあえず、目撃地点を見て分かることは二つ。一つは、最初の目撃地点である月の宮ショッピングモールの裏から、目撃地が時計回りに動いてること」
百は話しながら、ペンの先で、赤い点を時計回りに叩いていく。
なるほど確かに、彼の言う通り、赤い点の日付は、百が叩いた順番に日を経ている。最後に叩かれたのは、昨日の日付。百が襲われたと予測する場所だ。
「時計回りねえ……偶然じゃないの?」
「八回の目撃でこんな行動をしているなら、恐らく時計回りにわざと動いていると思った方がいい。それと、もう一つは、どれも人通りがほぼないところで、おまけに目撃回数を経るごとにスパンが短くなってる。僕が襲われたのは、最後の目撃の次の日だ」
「月の宮ショッピングモールって、駅前でしょ。人が集まり過ぎる場所じゃない?」
「駅の南口はね。東口は元々商店街で、今は売り上げの低迷で寂れてるんだ。だから、もし口裂け女が人間の前に姿を現したとしても、目撃者は一人か二人くらいだろうね」
「噂を広めるには、都合がいい、ですね」
リカの相槌に、百が頷いた。彼女の言う通り、人を襲い、更に少数の誰かに見てもらうとするなら、百の話す駅の東口は、うってつけと言える。
「うん、本格的に襲撃を始めたことで法則性が崩れるかもしれないけれども、次に誰かの前に姿を現すとすれば――きっと、この辺りだ」
弁当箱を仕舞いながら、百が指さしたのは、百が襲われた場所から少しだけ離れた、かつ時計回りの位置だった。周囲には人が住んでいる家がなく、家屋が建っているとしても空き家か倉庫ばかり。日当たりも悪く、裏道も多い。
都市伝説達からしても、ここはなかなかの良物件のようだ。
「なるほど、この裏道、ほとんどが空き地か空き家で、駅や道路からも外れてる。空間さえ使えば人の出入りも制限出来る。オレが口裂け女なら、きっとここに出て、目撃されるだろうね。或いは、百クンの時みたいに、人を狙って空間を発動させて……」
「獲物を襲う。そうはさせないわよ、あたし達の安住の為にも」
目的地は固まった。百に出来るのは、ここまでだ。
「えっと、僕に出来るのはここまでだと思う。口裂け女をどうするかは――」
「ああ、オレ達に任せてくれ! 本当に助かった、ありがとう百クン!」
これからは、同じ力を持つ、都市伝説の役割だ。
「そうね、人間じゃあここから先は足手まといよ。都市伝説の相手は都市伝説に任せときなさい、作戦だって昨日、考えてきたんだから」
「作戦?」
百が聞くと、ターボはガッツポーズを見せた。てけや、リカですら少しばかり自信ありげな表情をしているところから察するに、三人で頭を捻りながら考えた、相当成功率の高い作戦なのだろう。
「うん、オレ達三人できっちり口裂け女を捕まえる作戦さ! 本当なら交渉したいんだけど、昨日ぶち切れさせちゃったし、まずは話せる状態にしてからじゃないとね!」
「そうと決まったら、善は急げよ。今日の放課後、さっそく作戦を開始しましょ」
その提案に関しては、百は待ったをかけた。
「いいの? 今日相手が来るって決まったわけじゃあないけど……」
「そうしたら、次の日もやるだけよ。まずは三日ほどやってみて、仮にアンタの予測が外れてても、腹いせに右足をもぎ取ってから、別のやり方を考えればいいし」
「もぎ取る前にやり方を変えるから、そうなる前に教えてよね……」
人間の足をもぎ取るというのは、胴を切る以外の、『てけてけ』の主な殺害方法だ。女性の外見にそぐわない残酷な手口と、話を聞いた者のところに行くという観客を巻き込む方式の噂のせいで、この殺し方も広まっている。
百も勿論その手段を知っていて、今は本人から聞いたのだから、余計に恐ろしいものだ。
とはいえ、足をもぎ取られるのは勘弁だが、これだけ彼らにやる気があるというのに、水を差すのも良くないのかもしれない。地図と資料を片付けながら、百は三人の立てたという、作戦を信じることにした。
「じゃあ、その作戦でいこうか……あ、そういえば」
地図を畳み終わった時、ふと、百が物置を出ようとする三人に声をかけた。
「一つだけ気になってたんだけど、いいかな?」
「なんだい、百クン?」
今まで気になっていたが、聞く機会がなかった、それだけの疑問。
「三ツ足さんって、『三本足のリカちゃん』なんだよね? 肘走さんは噂通り足がないのに、三ツ足さんに三本目の足がないのは、どうして?」
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