第3話
しかもそれらは、さも生徒であるかのように振舞っている。
更に言うなら、それらは人間ですらないように感じる。
なのに、他の生徒は誰も気づかない。いや、気づかないというよりは、授業風景に当たり前のように溶け込みすぎて、誰も異常だと思っていないかのようだ。
最初は百も、他の生徒と同じような印象でしかなかった。多少気になる見た目をしているが有象無象のクラスメートと同じで、自分の生き方に何の関わりも持たない人間だ。
ところが、注意深く観察しているうちに百が気づいたのは、このクラスの総生徒数の異常だ。担任の先生が出席を確認する時に読み上げる生徒の総数は三十一名。ところが、生徒の人数と机の数を数えると、三十四人と三十四個。十回以上数えても数は同じで、先生が認識していない三人が、この教室にいることになる。
幸い、その三人は直ぐに判明した。前述した通り三人とも見た目がどちらかと言えば奇抜だったのも理由だが、授業の最中でもおかしな点があったのだ。
その三人は、体育の授業中にはいなくなり、次の授業では何食わぬ顔で数学の授業に参加していた。その三人は、昼休みには揃って屋上へと向かっていったが、ついて行っても必ず見失ってしまう。その三人は、そもそも他の生徒や教師には見えていない。まるで、学校生活の都合の良い部分だけを体験している一般人のような扱いだ。
教師や他の生徒には相談しなかった。自分以外の全員が見えていないような素振りをしているのだから、話した時点で笑われるか、奇怪な人間扱いされるだけだ。他人の評価などなんとも思わない性格だが、思われる点自体は不愉快だとは思うのだ。
違和感を覚えた日から二日ほどかけて、彼は三人の特徴を観察した。
一人は男子生徒。瞳の色は黒。八重歯。肌の色は健康的かつ一般的な肌色。髪は襟足を肩辺りまで伸ばした金髪をオールバックにしている。筋肉量はあるが引き締まった、所謂細マッチョ体系。制服自体は改造していないが、黒の竜の刺繍が入った赤い七分丈のシャツを着て、学ランは腰に巻いている。この時点で風紀委員に取り締まられるはずだが、誰も言及はしていない。
もう一人は女子生徒。長い茶色の髪を頭頂部でお団子状に結ってある。瞳の色も茶色。まつ毛の長い吊り目以外は取り立てて特徴のない、一見すると普通の女の子。強いて言うなら、時折見える指の爪が長く尖っているのがチャームポイント。つま先まで隠れるほど長いひざ掛けをかけて、やや古びた車椅子に乗っているが、階段で誰かが助けてあげる様子も、補助する様子もない。
最後の一人も、女子生徒。腰まで伸びた艶めくブロンドの髪、人形のように整った顔立ち、緑色のぱっちりとした瞳など、西洋人形のような美しい少女の外見をしている。ただ、百にはどうしても、女子生徒の制服を着た彼女の体が、男性的なそれに見えてならなかった。細身の男子が女子の制服と黒のニーハイソックスを着用すれば、こうなるだろうか。
誰も、彼らに声をかけない。三人で話をしているのを時折見かけはするが、直ぐに屋上に行ってしまうので、それぞれが名前を呼んだのを見たことがない。だから、それらを『何か』としか呼べず、妙に悶々とした気持ちを抱えていた。
この三人こそが、生徒としてカウントされていない『何か』だと、百は確信していた。
この三人が一体何者なのか、そもそも人間なのか。百の『趣味』に対する感情と同じ感情が、日を経る度にふつふつと湧き上がってくる。
調べたい。調べなければ。
そんな感情が鎌首をもたげ始めた、調査開始から三日が経った、ある日。
「おいっす! 語部クン、だっけ?」
「…………はい?」
調査対象のうちの一人、金髪の男子生徒の方から、百に声をかけてきた。
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