ⅩⅡ 小悪魔

男の手が、私の服にかけられたその時。



ドゴォッと大きな音が部屋に響いた。




「うぇえ!?なんスか!?」



「ディアボロ……」





何をしている。



そこには文字通り悪魔のようなオーラを纏った彼が、壁に拳を突きつけて眼光を光らせていた。



パラパラとコンクリートの破片が床に落ちる。




あー、これマズかったやつ?


何かを察したようで男は頭を掻きながらさっと私の上から退いた。




「処理、終わったって報告に来たんスよ。んじゃあそれだけなんで失礼するッス」



男はそれだけ言ってそそくさと彼の横を通り過ぎた。




「てか、旦那もせっかく鍵かけたってその辺に置いてたら意味無いッスよ~」



オレみたいな奴が入ってきたらお終いッス。




バタン。




……。





嵐のようだった…。





「あの…」



「何もされてないな?」



「あ、はい…」




…そうか。



彼はソファに倒れ込んだままの私を起こし、そのまま抱きしめた。



すまない。不用心だった。


お前を外に出させないようにはしていたが、外から入ってくる輩がいることを忘れていた。




…ここ、そんなに危ない地域なの?


私が住んでいたところとは離れたところなのだろうか…。




なんだかすっかり拍子抜けしてしまった。


さっきまで外へ出ようと息巻いていたのに、この様子じゃあ当分は出られないだろうな…


ああ、そういえば。




「あの、さっきの人…旦那って呼ばれてましたけど…」



「あいつは…仕事仲間だ」




仕事仲間!?あんな人が職場にいるなんて厄介すぎる…


処理がどうとかも言ってたし、この人もさっきの人も謎だし、いよいよ自分がなんでここに居るのかわからない。



「ず、随分物騒な仕事をしていらっしゃるんですね……?」




…。





その日、彼が私に話しかけてくることは無かった。

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