Ⅹ 記憶と焦燥
2、3日経つと、人は慣れるものらしい。
軟禁状態であることを除けば、三食お風呂付き、たっぷりの睡眠と、ごく普通の生活を送っている。
悪魔だなんて言っていたけれど、彼は危害を加えてこなければ、朝晩のご飯を作ってくれるわ、私の大学生活の愚痴を聞いてくれるわ、寝る前は頬にキスを落とすわ、完璧なスパダリっぷりである。
かれこれ一週間も経てば、私は退屈すら感じ始めていた。
案外、することが無いというのも辛いものだ。
この家にはテレビもなければ娯楽もない。
こんな生活ですることと言えばせいぜい読書くらいだろうが、彼が貸してくれた辞書ぐらい分厚い本は難しすぎて読むのを断念した。
そう思えば、なぜ彼はこうも私をどうするでもなくここに置いているのだろう。
不安や恐怖が退けば、様々な疑問が浮き上がってくる。
あの晩のことを、もう一度思い出してみよう。落ち着いた頭なら何か新しいことを思い出せるかもしれない。
私は酔って外に出て、それからの記憶は……日も暮れた頃に悪魔に遭遇した。でもそれは夢で……
…でも、その夢の悪魔は実際に存在して、養われている……?
夢ではない……?
それで……その時の彼は、私を見下ろして、
赤い目が、金属に、反射して、
彼は……
ナイフを、持っていた。
そうだ、彼はあの晩、
私を殺そうとしたんだ。
私があの晩見た夢は、私を殺しに降りてきた悪魔の夢だった。
しかしそれは夢ではなかった、
つまり、あの悪魔ははじめ私を殺そうとしたが、何を思ったか酩酊状態の私をそのまま持ち帰り、面倒を見ると言ったわけだ。
一体どういうわけだ。
私を殺すつもりで、私の首にナイフをかざした男と、今同じ家で暮らしている。
それってとっても、危ないのでは……?
薄れ消えかかっていた恐怖が再び全身を駆けていき、私を痺れさせた。
ここから逃げ出さなければならない。
こんなの、怪しいに決まってる。
イケメンに養われる夢に騙されて臓器を売られるわけにはいかない。
彼が帰ってくるまで、体感ではおそらく二時間弱。
そうと決まれば、早速ここを出よう。
生きて帰れたら、きっと何か生きがいを見つけられるはず。
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