Ⅸ 純白ネグリジェ

夕ご飯はシチューだった。



野菜はジャガイモしか入ってないし、大きくてゴロゴロしていたけど、味は美味しかった。




彼はあまり話さなかった。


時折私をじっと見つめてくることがあったけど、特に言うことは無いようだ。


私も軽口を叩けるほどの度胸はなかったので、この空間はほぼ無音だった。




部屋の外にいた彼が、扉から顔だけ覗かせて私に声をかけた。




「風呂、入るか」




家の中を案内された時はざっと見ただけだったので特に気もとめなかったが、お風呂はコンクリートがむき出しでとてもお湯を張ろうとは思えなかった。



隅には新品のシャンプーボトルと石鹸が用意されている。





───私、何してるんだろ……





勢いの弱いシャワーを身体に当てていく。


知らない男の人の家で眠って、ご飯食べて、シャワー浴びて、きっと今晩もここで寝るんだろう。


最後に身体をざっと流し、風呂を出た。



洗濯機の上に着替えが置いてあった。




………





「これを着るの!?」





それは真新しい、真っ白なネグリジェだった。



あの人の趣味…?それにしても……



…とりあえず、他に着るものもないしこれを着るしかない。



ネグリジェを着てリビングに行くと、彼はソファで本を読んでいた。




難しそうな本読んでる…邪魔したら悪いかな。



そっと扉を閉めようとすると、赤い瞳と目が合ってしまった。





「何をしている。こちらに来い」





そう言ってソファをぽん、と叩く。



「あっはい……」




そろそろと彼の隣に腰を下ろした。



あわよくばそのまま自分の部屋に帰ろうと思ったのに……この格好は少し、というかかなり恥ずかしい。



俯いていたけれど、隣からとても視線を感じる。




「似合っている」




本物の天使のようだ。


やはり白にして正解だった。





……




やっぱり趣味だったんだ……



その後急に饒舌になった彼に褒め倒され死ぬかと思った。


一生分の褒め言葉を貰った気がする……。



なお、話している間彼はずっと真顔だった。





「さあ、アンジェラ。もうおやすみの時間だ」




上機嫌だ…。


なぜか寝室までエスコートされて、ベッドに寝かされ、布団までかけてくれた。



いい夢を。…おやすみのキスまで。




文化の違いって怖いなあ…




しばらく眠れなかった。

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