Ⅴ 隠れ家
眠りから覚めた時、自分がどこにいるのか一瞬分からなくなるというのはよくある現象だ。
しかし、目が覚めたら自分が“本当に知らない場所にいた”とはいかなるものか。
しかも昨夜の記憶がほとんど無いなんて。
意識が浮上してくると共に、刺すような頭の痛みと、この状況に対する恐怖がじわじわと込み上げてきた。
人攫いに捕まってしまったのだろうか。
それとも私を人質に取って日本にいる家族に身代金を要求するだろうか。
もしくは、生きたまま解剖されて臓器を……
考えて、背筋が震えた。
重たい身体をどうにか起こし、状況を整理することに専念した。
私はソファーでブランケットにくるまって寝ていた。
ここは10畳ほどの部屋で、おそらくリビングだろう。
この部屋には窓がなく、出入りの手段はドアがひとつあるだけだ。
家具は私が寝ていたソファーと埃を被ったローテーブル、申し訳程度の薄いカーペットのみで、明かりも天井に蛍光灯がぶら下がっているだけだった。
生活感がない。
もしかしたら、夜中に帰り道が分からなくなって無人の家に寝泊まりしたのかもしれない。
……思い出した、夕方酒をしこたま飲んで外を出歩いていたのだ。
それでこの家にたどり着き、寝落ちしたのだろう、きっと。
混乱が少し収まり、恐怖がだんだん引いていった。
そうそう、酒を飲んだのだ。それで飲みすぎて末にこんな所に…
ああ、それと。
ひどく美しい夢を見た。
赤い瞳の悪魔の夢。
確か私は夢の中で、彼をこう呼んだ。
「
その名前を口の中で転がすと、なんだか甘く感じたような気がした。
同時に、ふわっと、高価な香水の甘い匂いに包まれ、視界の端に見覚えのあるちぢれた黒髪が映った。
「……呼んだか、私の
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