挨拶から始める生徒会生活
朗報です。
遂に常識的な人物が登場しそうな予感がします。
ん? やだなぁ、フラグなんかじゃないですよ。
ーーーーーーーーーーー
生徒会の朝は早い。今日も、当番の生徒会メンバーが昇降口に立ち、挨拶運動を行っている。
「おはようございます、会長」
「ええ、おはようございます」
「おはようございます、マーガレットお姉様」
「おはようございます。あら、タイが曲がっていてよ?」
うんうん、せっかく百合ゲームの世界にいるんだから、こういう光景が見たかったんだよ。マーガレット会長と女生徒たちの日常風景に、ボクは心を踊らせる。
「おはようございます、シラン様」
「おはよう、ございます」
「おはようございます。えっ、シランさん……遂に生徒会入りですか?」
「いえ……その、おはよう、ございます」
マーガレット会長と並んで挨拶運動に勤しんでいるのは、何を隠そうこのボクだ。だから当然、ボクの方にも女生徒たちからの挨拶が飛んでくる。
中には驚いた表情で声を掛けてくる同級生もいるが、説明するのが厄介なので、苦笑いして誤魔化しておく。
こんなこと、性に合わないんだけどなぁ。
「ひとまずお疲れ様です、シランさん」
「疲れ、ました……会長」
「あらあら。生徒会の一日は、まだ始まったばかりですよ」
結論から言うと、今日のボクは一日限定で生徒会メンバーとして活動することになっている。
そんな面倒なこと、正直ボクはやりたくない。だけど、リリーの件で会長が言い出した、独り占めの権利とやらを行使されては、断りづらかった。
そもそもの失敗は、軽い気持ちでアネモネの願いを叶えてしまったことだ。アネモネひとりを特別扱いするのか、なんて感じのことを言われてしまうと、渋々ながらも了承するしかない。ボクは自ら泥沼に嵌ってしまった、というわけだ。
「それでは放課後、生徒会室でお待ちしておりますよ」
まあ、リリーやアネモネと違って、会長は変なことしてこないので安心だけど。いやでも、やっぱり面倒だなぁ。
◇
ということで、やって来ました生徒会室。このソファの座り心地、何気に久しぶりだ。
「今日の活動内容ですが、楽しくお喋りでもしながら、書類を片付けていく予定です。なので、肩の力を抜いてくださいね」
そうは言うけど、会長……卓上に積まれている大量の書類を目にして、とてもじゃないけど肩の力を抜く気にはなれないよ!?
これが生徒会の日常なんだろうか。ボクにはとてもこなせそうにない。そんなことを思いつつ、会長の手ほどきを受けながら書類の山に手をつける。
「そういえばシランさん、わたくし生徒会メンバーにはお姉様と呼んでもらっているのですけど」
「そうなん、ですか?」
それは初耳だ。何その花園空間。
「よろしければ、シランさんもこの前みたいにお姉様と呼んでくださらないかしら」
あれ? ボクって会長のこと、そんな風に呼んだことあったっけ?
「ほらほら、お姉様って言ってみて?」
「えっと……」
「ほらほら、さあ言って、シランさん」
なんだろう、頭の中が混乱してきた。会長がそう言うなら、お姉様って呼んだ方が良い…のかな。
そんな風に思い始めたタイミングで、横から呆れたような声が飛んでくる。
「こらっ。またそうやって、いたいけな後輩を誑かして。とにかく嘘は良くないな、マーガレット」
「……あら、コスモス。早かったわね、もう来ちゃったの」
「えっと、シランさん、だったかな? マーガレットの言うことなんて、いちいち真に受けなくていいからな」
うおお、誰この麗人。クールで端正な顔つきに、爽やかなショートヘア。高身長でスタイルも抜群。なんというか、男装したらめちゃくちゃ似合いそう。
「もう、良いところだったのに。ほら、シランさんがコスモスに見惚れちゃってるじゃない。いつもこうなんだから……」
「えっと……誰、ですか?」
「ごめんなさいね、シランさん。このお邪魔虫はコスモス、我が学院の副会長ですわ」
なるほど、副会長なら生徒会室に来て当然だ。
あれ? でもこんな人物、『フラワーエデン』にはいなかったような……
「マーガレットが君を困らせたようで、大変申し訳ない。わたしは副会長のコスモスだ。よろしく」
「はい。よろしく、です」
「コスモスは天然のたらしだから、シランさんはくれぐれも気をつけてね」
「おい、何だか酷い言われようだな!?」
たしかに、女子校とかだとモテそうな雰囲気だもんね。
中性的って意味で系統が近いのはアイリスだけど、やんちゃな雰囲気のアイリスとは違ったオーラを纏っている。このコスモスって人、シンプルにかっこいい。
「コスモスのせいで、わたくしの計画はいつも狂うのよ」
「いや、幼馴染として、さすがに止めるべきだと思うのだが」
「この生徒会だって、せっかく可愛い子を集めたのに、どの子もわたくしと貴女が特別な関係だと信じきっていているのよ!? おかげで、手を出そうとすると逃げられちゃうんだから」
「いやいや、そんなことはないって。というか、マーガレットが不純な動機で迫るからだろう?」
ふむふむ、二人の言い争いを聞いていて、なんとなく関係性が掴めてきた気がする。
たしかに、会長と副会長が幼馴染、しかもタイプが真逆の美人同士というわけだから、それを眺めている乙女たちが妄想を膨らませるのも理解できる。
というか、ボクも全力で推したい。生徒会、意外と悪くないね。ちょっぴりテンションが上がってきた。
◇
「お疲れ様です、シランさん」
「お疲れ。シランさんは手際が良いね。正直、とても助かったよ」
「お疲れ様、です」
書類をひと通り片付けたときには、すっかり陽が傾いていた。生徒会室の窓からは、鮮やかな夕陽が差し込んでいる。
それにしても、しれっと褒めながら頭を撫でてくる辺り、コスモスさんはたしかに天然のたらしだ。ぶっちゃけ、天然のたらしなんて実在しないと思ってたんだけど、いるところにはいるんだね。
「シランさん、このまま正式に生徒会メンバーになってくださらないかしら?」
「たしかに、わたしも大賛成だ。君さえ良ければだけど、どうだい?」
生徒会なんて似合わないと思っていたけど、この人達と一緒に放課後を過ごせるなら、案外悪くない選択肢なのかもしれない。
そうは思いつつも、静かに左右へ首を振る。
「そうか、わかった。残念だけど、無理やりは良くないからね」
「うぅ……コスモスの所為で、計画が実行に移せなかったからですわ」
「計画……?」
何のことだろう?
「何でもありませんよ、シランさん。ふふ。いつでも歓迎しますので、生徒会入りの件はもう少し考えておいていただけると嬉しいです」
「あ、はい。わかり、ました」
こうして、ボクの一日生徒会体験は幕を閉じた。
生徒会、意外と楽しかった。今度は他の生徒会メンバーも揃っているときに、ちょこっと覗いてみたいかも。
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抑止力として機能する常識人がひとりいるだけで、こんなに状況が変わるんですね。
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