第12話 塩漬け
冒険者組合に依頼される案件の中でも、長期間放置されたままになる依頼が多少なりとも出てくる。
街の中の依頼であれば、新人の冒険者が組合に加入した際に、放置されていた依頼を実績を積ませる為に任せるのだが、街の外で特に森の周辺などでの依頼となるとそうはいかないのが現状である。
そして、そういう案件は高ランクの冒険者では金銭的に割が合わなく、低ランクの冒険者では命の保証が無いというような依頼となり塩漬けとなってしまうのだ。
◇◇◇◇◇
「ふぅ、こんなものかな。クイ-ンありがとうね!」
ある日のわたしは、休暇を利用して人の立ち入らない森の奥の花畑へとハニービーの蜜を回収にきていた。
このハニービー達は以前、討伐の対象だったのだが割が合わない為に長期間放置されていた案件の一つだった。
そこでわたしは、依頼されていたハニービーの巣を依頼のあった場所から回収してこの森の奥の花畑へと運んできたのだった。
「甘いは正義!」
因みに、クイーンハニービーとわたしは友好な関係を築いている。
害が無ければ、恵みを与えてくれる方が良いではないか。
また違う、ある日のわたしは......。
ボワッ!
グギャ~~~!
「もう本当に、いつの間にこんなに繫殖してしまうのかしら。
ゴブリンだけは、その生態が謎だわ」
そう言いながら、わたしはゴブリンの集落を焼き払っていた。
「確かこの案件は隣街でも依頼を受け付けていたはずなのに、受けてくれる冒険者が居ないのかしらね」
そう、暇なときは塩漬けの依頼を片付けているわたしが居た。
収入には一切ならないのだが、気分転換という魂の解放にはもってこいの案件だったりする。
人の目は気にならないし、わたし自身の戦闘訓練にもなるしね。
◇◇◇◇◇
「ユリアちゃん、なにか良い金になる依頼は無いかな」
珍しくマークさんがそんな事を窓口で言ってきた。
「おはようございます、マークさん。どうしたんですか?お金に困っている様には見えませんが」
「いやなぁ、かみさんの誕生日が近いから、そのあれだ...」
「なるほど、お誕生日プレゼントを上げたいんですね」
「まぁ、そういうことだ」
「そうなると、安全で稼げる依頼が良いですね」
わたしは、マークさん達のパーティーでこなせる依頼をリストの中から探していく。
「これなんか、どうでしょうか?」
「どれどれ。...ガゼルの角10対か」
「これなら森の浅い近場で済みますし、マークさん達Aランクの冒険者パーティなら楽勝でしょう。角は依頼ですが、お肉は別途で買取りできますから割が良いと思いますよ」
「そうだな。依頼料と買い取りでウッハウハだな」
そう言うと、マークさんはパーティー仲間と共に組合を出ていった。
それから数日後......。
窓口の奥にある職員用の部屋で、わたしが依頼票の仕分けをしていると、チーフのシンシアさんが声を掛けてきた。
「ユリアちゃん、この依頼票を長期間放置の所にプラスしておいて」
「はい、お預かりします」
シンシアさんが渡してきた長期間放置の依頼票には、ある洞窟内で取れる
しかも、それは3年前の依頼票だった。
その青光草は七の月、満月の夜にしか花が咲かないと言われている草花で、月灯りに照らされている地面の処にしか生息していないらしい。
依頼票を良く確認すると、冒険者が何度かチャレンジしたみたいだが、採取は叶わなかったようだ。
「...面白そう!」
わたしは、純粋にどういう草花かその姿を実際に目で見て確かめたくなったのだった。
「今は六の月の初めだから、七の月の満月の夜は......。
あっそうだ、この洞窟の下見には行っておかないといきなりは無謀よね」
二日後、わたしは休暇を利用して地図を片手に洞窟を目指して駆けていた。
「変装はしているから良いけれども、たまにすれ違う商人の馬車の人達には怪訝な表情をされるわね。街道から外れた人気の無い所で転移した方が良いかな」
そう考えたわたしは、目視出来る目標を設定しながら、短距離の転移を繰り返して目的の洞窟へと移動したのだった。
「ここかぁ~。この光景、写真で見たことがある。
そう何処だったかな、天井に所々穴が開いていて回廊のようになっていて、柔らかな光のカーテンが綺麗だったあの洞窟」
場所の名前は思い出せなかったが、側壁がマーブル模様で懐かしい感じがした。
「なるほど、この造りだと何処に生えているのかを特定するのは至難の業ね。
依頼が長期間放置されてしまうのも納得できるわ」
今のわたしは、傍から見たら独り言を喋りながら歩いている変人の類だろう。
わたしは、満月が洞窟に開いた穴の真上に来た事を想定して場所を決めていく。
そして、候補の場所にわたしだけが分かる印を付けると洞窟を後にした。
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