第11話 新米の冒険者
孤児院でおこなっていた、わたしの指導も終わりが近づいた頃...。
孤児院に居る子供たちの中から数人、冒険者になりたいという子たちが冒険者組合へとやって来たのだった。
「「こんにちは。ユリア先生」」
「こんにちは。今日はどうしたの?」
わたしは、突然訪ねてきた子供たちに理由を尋ねた。
「俺たち、冒険者になりたいんだ」
「私も」
「俺も」
そういうことか。
「院長先生には、話をしてきたの?」
わたしは、院長先生に許可をもらってきたのか尋ねてみる。
「院長先生に許可はもらって来たよ。
俺たちも12歳になったから仕事をしたいんだけど、まだ読み書きが苦手だから...良い仕事には就けないと思うんだ。だから、冒険者になって稼ごうかなと体力には自信があるからさ」
子供ながら、ちゃんと考えてから来たんだね。
「分かりました。では、こちらの用紙に名前と年齢、住所は孤児院を書いて下さい」
わたしは、組合に加入する為の登録用紙を三人分用意すると子供たちにそれぞれ手渡した。
子供たちは登録用紙を受け取ると、覚え初めの拙い文字だがしっかりと名前などを書き始めた。
わたしがその様子を眺めていると、シンシアさんがわたしの隣へとやって来た。
「ユリアちゃん、孤児院の子供たち」
「はい、そうですよ」
「この子たち、字も書けるようになったのね」
シンシアさんが、子供たちが文字を書けるようになった事が、殊の外嬉しいようだった。
そのシンシアさんの様子を見たわたしは、子供たちを指導してきて良かったと心から思った。
「「「書きました」」」
そう言うと、子供たちは書き終わった登録用紙をわたしへと渡してきた。
「はい。では、確認しますね」
わたしは、渡された登録用紙に記入漏れなどが無いか確認をしていく。
そして、キチンと書かれている事を確認したわたしは...
「では、このカードのこの部分に、血を一滴付けて貰いますね」
そう言うと、わたしは子供たちに消毒した針を一本ずつ手渡した。
子供たちは、私から針を受け取ると躊躇いなく指先に針を指して血を滲ませるとカードの指定された部分へと血を一滴垂らした。
それにより、カードの個人登録が完了した。
わたしは、使用した針を子供たちから返してもらうと、指先を出してもらい傷口にヒールを掛けて傷を癒やしてあげたのだった。
「「「ユリア先生、ありがとう」」」
子供たちが傷を癒やしたことへのお礼を言ってくれる。
その後は、組合の規則を説明する為に別室へと連れていき、休憩を間にはさみながら子供たちに1時間くらいの講習をしたのだった。
講習が終わり、子供たちが孤児院へと帰った後......。
「ユリアちゃん、あの子たちに誰か指導員を付けてあげた方が良いと思うの」
シンシアさんが、不意な提案をしてきた。
「でも誰か、指導してくれる人が居ますかね?」
「あら、ユリアちゃんが頼めば、みんな協力してくれると思うわよ」
ん~、そうだろうか?
眉間に皺を寄せて、考え込むわたしを見てシンシアさんが...
「ほら、あの女性たちのパーティーとか良いんじゃない」
そうだった、何も男性の冒険者に頼む必要はないのだった。
「もう、そんな嬉しそうな顔をしないの。
男性の冒険者たちが、残念がっているわよ」
えっ、と思い...わたしが、ホールの方に目を向けると、確かに残念そうな表情をした男性陣がこちらをみていた。
「ユリアちゃんのファンはいっぱい居るんだから、少しは気にしてあげてね」
シンシアさんは何かにつけてわたしにそう言うが、わたしはこれからも男性陣の事を気にはしてあげることはないだろう。
そしてこの日の夕方、わたしの勤務時間が終わる頃、サンドラさんのパーティーが組合へと帰って来た。
そこでわたしは丁度良いタイミングだと思い、窓口にやって来たサンドラさんに声を掛け、事情を話して指導のことをお願いしてみたのだった。
すると...
「あら、良いわよ。ユリアちゃんのお願いだもの任せなさい」と、サンドラさんはあっさりと承諾してくれた。
そこからはとんとん拍子で話が進み、数日後には子供たちにサンドラさんを紹介する事が出来た。
最初顔合わせをした時の子供たちは、現役の冒険者が指導してくれるという事で凄く緊張していたが、サンドラさんの気さくな性格のおかげで、指導を受けているうちにその緊張は直ぐに解れていった。
これで子供たちも無茶をして死ぬような怪我をすることなく、組合の仕事を覚えていくことが出来るだろう。
因みに、子供たちの指導料は組合が負担している。
若い子の人材確保は、組合にとっても最重要事項だからだ。
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