第10話 どの世界でも

どの世界でも、私設の孤児院の運営は大変なのだろうと思う。

街から金銭の補助は有ってもギリギリの生活だろう、それにより子供たちの面倒を見てくれる人材が少ないのも問題だ。

子供たちの識字率が低くなり、大きくなった時に仕事を探すのも大変になるからだ。


わたしが、ここで色々と考えても出来ることは少ないのだが...。


そんな事を思っていると、わたしの視野の中でお姉さんの指先がピクリと少し動いたのを確認した。

そろそろ、お姉さんが目を覚ます頃合いになったのだろう。


それから数分後、お姉さんの瞼がゆっくりと開き確かめるように周りを見渡した。


そして、ベッドの傍で椅子に座っているわたしを見ると...


「え~と、あなたは?わたしは、どうしたのでしょう?」


お姉さんは、自分が倒れた時のことは覚えていない様子だった。


「わたしは、ユリアよ。冒険者組合で受付嬢をしているの。

お姉さんがここで倒れてしまったから助けてと、一人の女の子が組合に駆け込んできたの、それでわたしがお姉さんの治療をしに来たのよ」


「そうでしたか、ユリアさんありがとうございました。

このところ忙しくて、寝る暇も無いぐらいでしたから無理が祟ったんですね」


「そうね、無理はいけないわね。

わたしが来るのがもう少し遅かったら、お姉さんは死んでいたかもしれないから」


「えっ!そんなに、ひどい状態だったんですか?」


お姉さんは、わたしの指摘に狼狽すると俯いてしまった。


そんなお姉さんに...


「でも、間に合って助かったんだから良いじゃない。

子供たちの為にも、必要以上な無理をしない。これが一番大事なことですよ」


「そうですね。子供たちの為にも、今後は気を付けます」


「そうそう、お姉さんが居なくなったら子供たちが路頭に迷ってしまうから、気を付けて下さいね」


治療費のことは後で相談することにして、この日わたしは孤児院の食事の支度を手伝ってから組合へと戻った。



「どうだったの?」


組合に戻ると、シンシアさんが状況を訪ねてきた。


「何とか間に合いました」


「そう良かったわ。こちらの業務は、私が代行してやっておいたから、確認だけはして置いてね」


「はい。シンシアさん、ありがとうございました」


わたしは、シンシアさんが処理してくれた依頼票などの書類に一通り目を通して確認作業を進める。そして、この日の業務はそれで終了となった。



二日後......。

わたしは、休暇を利用して孤児院を訪れていた。


「本当に良いのですか?」


「えぇ、実際にやるのは子供たちで、わたしは指導するだけですから」


お姉さんが、わたしに確認をしてくる。


孤児院には程よい大きさの畑があったのだが、放置されたままになっていたのだ。

その畑は、指導する人がいなくて宝の持ち腐れと化していた。

そこでわたしは、お姉さんに畑を復活させるお手伝いをさせて欲しいと希望を伝えていたので、休暇を利用して孤児院にやって来たのだ。



「みんな~、お姉さんが魔法で雑草を処理するから、それを集めてここに持ってきてね」


「「「は~い」」」


子供たちの元気な返事が帰って来る。


それを合図に、わたしは土魔法を使って土の表面から50cmほど地中までをシェイクして雑草を地表へと押し出す。それを今度は子供たちが拾い集めてわたしが指定した場所まで運んでくるのだ。


それを何度か繰り返す、すると雑草だらけだった畑が見違えるように綺麗な畑として復活を果たした。


「「「凄~い。綺麗になった~」」」


子供たちも綺麗になったと喜んでいる。


だが、このままでは瘦せた土地でしかないので肥料が必要だ。


そこでわたしは、子供たちが集めてくれた雑草を火魔法で焼くことにした。

雑草を灰にして、今度はそれを瘦せた土地に撒いて土と混ぜるのだ。


「みんな~、少し離れていてね」


わたしは、子供たちに声をかける。


そして、子供たちが離れたのを確認したわたしは、一気に火魔法を使い雑草を灰にした。


「「「お~、すげー。」」」


「「「凄~い」」」


普段魔法など目にしないであろう子供たちには、土魔法よりも火魔法の方がインパクトがあったようだ。


「みんな、今度はこの出来た灰を畑に万遍なく撒いてくれるかな」


「「「は~い」」」


子供たちが、わたしが用意した木桶を使って灰を畑へと撒いていく。


作業の途中、休憩とお昼の食事タイムを取ったが、夕方までには全ての作業を無事に終えることができた。


子供たちも自分達で作業をしたせいか、心なしか達成感を得た表情をしていた。


薬草や作物が育つようになれば、もっと生き生きとした表情が見れるようにもなるだろう。



この日から休暇の度に孤児院を訪れては、農作業の指導をしていたわたしは子供たちから先生と呼ばれるようになっていた。

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