第9話 平穏な日常
数日後......。
どうやら、上位種の討伐には関しては、討伐した者が見付からなかった事で、うやむやになってしまったようだ。
組合の窓口にいるわたしには職員特権で情報が耳に入ってくるので確定である。
これで、わたしは今まで通り窓口の受付嬢として平穏な日々を過ごせるのだ。
「おはよう、ユリアちゃん。何か良い依頼は無いか?」
「おはようございます。そうですね、この依頼などは如何でしょうか?」
「んっ、なるほどー。それで、期限は?」
「今のところ、期限の指定は無いようです。出来るだけ早く、とだけ書いてあるだけです」
「そうか。なら俺たちが引き受けよう。お前らもいいな」
マークさん率いるAランクの冒険者たちが同意の意志を示した事で、依頼の受注処理が完了した。
「じゃ、行ってくる」
そう言うと、マークさんとその仲間たちは組合を出ていった。
その後も、何組かの受注処理を終わらせると、お昼時となっていた。
「ユリアちゃん、手が空いたでしょう。お昼ご飯にしましょう」
「はい」
シンシアさんのお誘いに返事をして、わたしの持場である窓口の整理をする。
「お待たせしました」
「さて、今日はどこのお店に行きましょうかね」
と、楽しそうに行くお店を思い浮かべるシンシアさんだった。
午後からは、依頼を終えた冒険者が報告に帰って来るので、午前よりも午後の方が窓口は大忙しとなる。
ただ、わたしは女性の冒険者と男性でもAランクのしかも既婚者の冒険者しか担当しないので、割かし時間が空くのだ。
その時間は、他の窓口の後方支援に回っている。
但しあくまでも、後方支援で窓口でのやり取りには関わらない。
以前、違う窓口の受付嬢の隣で手伝っている時に、その受付の子が裏に引っ込んだ隙に、わたしの腕を無理やり掴んで窓口に座らせようとした輩が居て、それに対してわたしが泣き出してしまい騒動になったので、自分の窓口以外では窓口の傍には立たないようにしているからだ。
なので、わたしの担当しているAランクの既婚者の方々には感謝しているのだ。
いつも親切に対応して下さって、ありがとうございます...と。
本日、最後にやって来たのは、以前ゴブリンの集落から助け出された女性だけの冒険者グループだった。
「ユリアちゃん、これお願いね」
「はい、かしこまりました」
わたしは、討伐証明を受け取るといったん奥のカウンター、確認する為の部署に行き鑑定をお願いをする。
そこで、確認の証明書を発行してもらうと、自分の窓口へと戻り精算をする。
「お待たせしました。こちらが、成功報酬となります。ご確認ください」
「あぁ、大丈夫だよ。それで、ユリアちゃんもお仕事終わりだろう、久しぶりに私たちと夕食でもどうだい?」
「大丈夫ですよ。少し待ってて下されば」
「あぁ、いいよ。そこで、お茶でも飲んでるからさ」
そう言うと、サンドラさん達は食堂の方へ歩いていった。
あれ以来、彼女たちとはこうして偶に食事をする機会ある。
ただ毎回、食事中に彼女たちから聞かされる話しの内容は、わたしを狙っている男たちがサンドラさん達に仲介をお願いしに来て困る、というものだった。
その後、どうして私たちには話が来ないんだと愚痴を聞く役目になるのも毎回のことだっりする。
そんなある日のこと、一人の女の子が慌てた様子で組合の建物に入ってきた。
女の子のその慌てた様子を見て、シンシアさんが窓口を出て小走りで近づいた。
「どうかしたの?」
「あのね、お姉さんがね、倒れちゃったの」
「どこで、倒れたの?」
「あのね、孤児院の中なの」
それを聞いたシンシアさんがわたしの方に視線を向けると。
「ユリアちゃんお願い」
わたしは、意図を理解すると窓口を出て女の子に近付いて手をつないだ。
そして、女の子に問いかけた...
「孤児院に案内してくれる?」
「うん」
と、返事をすると女の子はつないだわたしの手を引くようにして歩き出した。
女の子に引かれること10分、その孤児院が見えた来た。
そのまま孤児院の中へと入り、お姉さんが寝かされている場所へと連れて行かれた。
わたしは、お姉さんの容態を確認しながら女の子に問いかける。
「倒れてから、どれ位の時間が経ったの?」
「あのね、40分前くらい」
女の子のその答えに、わたしは急いでお姉さんの解析を行った。
特に心配なのは、頭部と心臓だ。
心臓は大丈夫...頭部は、ここか。
どうやら、くも膜下出血のようだった。
確か症状が出てから、直ぐの治療なら後遺症は出なかったはずだし、ここは魔法での治療が可能な世界だからどうとでもなるはず。
わたしは、お姉さんの患部に手を添えると治療魔法を発動した。
この時のわたしは、性転換を考えていた年代の時に、人体の構造と機能を勉強しておいて本当に良かったと思った。
魔法での治療が終わり、お姉さんの顔色が土色の死に顔から、血色の良い生気のある肌色に変わったことで、治療が無事に成功したことを確信した。
「ねぇ、お姉さんは大丈夫?」
「もう大丈夫よ、少ししたら目を覚ますから安心して」
わたしは女の子の頭を撫でながら、そう答えたのであった。
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