第8話 続氾濫

治療テントの近くにやって来たオークたちは全て排除したが、前線の方では苦戦を強いられているようだった。


わたしは、如何したいのだろう、どうすれば良いのだろうか。


ローブのフードを深く被っている事で、わたしの素性は知られてはいないようだが。


そうだ、仮面を付ければ何とかなるかもしれない。


いま着ている物は、一般的な魔法職の物だから誤魔化せるはず。


何が良いだろう⁇


黄金のスカルマスク、いや派手過ぎる。


ジェイソンのお面、これはないな。


ウルトラの母はどうだろう。(×)


仮面舞踏会のマスクか、それもあれが良いかもしれない。


わたしが思いつたのは、ヴェネツィアのカーニバルで使用されていた仮面だ。


思考の中で仮面のイメージを具現化していく、すると数十秒後ポロロ~ンとチャイムに似た音が耳の奥で鳴り響いた。


ポーチの中で、仮面の制作が終了した合図だ。


わたしは、出来たての仮面をポーチから取り出すと、直ぐに装着して前線へと向かって駆け出した。

「わたしの平和な時間を返せ~」と心の中で叫びながら。


わたしは防壁の門を抜け、戦闘をしている所を避けながら、前線のその先に居るであろう指揮官の魔物の下に向かって一気に加速する。

皆からは、風か何かが通り過ぎたくらいの認識しかないだろうほどの速さでだ。


そして、見つけた。


一体のオーガキングを。


わたしは、それまでの鬱憤を晴らすべく、杖の先からレーザービームにも負けない光の矢をオーガキングに向かって放った。


一本の光の矢が、オーガキングの眉間を貫き空の彼方へと消えていく。


ここまでに掛かった時間は180秒だった。


わたしは、直ぐにその場を離れると、人気の無い防壁の門の外側に転移する。


そしてその足で、何事もなかったような顔をして医療テントに帰るのであった。



「どうだったの?」


「冒険者の方々が既に倒した後でした」


「そう良かったわ」


わたしが、医療テントを出てから5分ほどしか経っていないからシンシアさんがわたしがした事には気が付かないだろう。



その頃、最前線では......。


「おい、何だか急に魔物たちの統率が取れなくなって無いか」


「良い事じゃないか、一気に殲滅出来るチャンスだ」


俺ともう一人のSランクの冒険者は、魔物たちの間に隙が生まれた事を歓迎していた。


そうこの時は、自分達の力の方が勝っていた、と思いこんでいた。


それから、ゆうに2時間は掛ったが魔物を殲滅する事が出来たのだった。


「おい、ボブこいつを倒したのはお前か?」


「いや、サップ。お前じゃないのか?」


俺たち二人はお互いの顔を見合うと、速攻で否定しあった。


「じゃぁ、誰が仕留めたんだろうな」


「しかも、眉間を貫いて一瞬で終わらせているよな、腰の帯剣も抜いていないし」


これは、組合長に任せるしか無いか。



この日は、リーダー格の魔物だけ組合の建物に運び込み、残りは次の日に回収する事となった。



「ボブとサップ、組合長室に来てくれ」


俺たち二人は声を掛けてきた組合長に従って、組合長室に足を運んだ。


「二人とも、ご苦労だった。オーガキングを仕留めてくれて助かった。

報酬は半分ずつでいいか」


組合長が、突然とんでもない事を言い出した。


「いや、ちょっと待ってくれ組合長。何か誤解があるようだが、俺たち二人はあいつの討伐には関わっていない」


「そうだぞ、俺たちがそいつの所に到達したときには既に倒された後だったから」


俺たちは、その時の状況を組合長に対して、覚えている事を丁寧になるべく詳しく報告した。


「そうなのか。俺はてっきり二人が倒したものだと思っていたんだが」


この日は、この問題には決着がつかなかったのだが......。



二日後......。

仕留められた部分を調べていた、解体のスペシャリストから報告があったらしい。


そこで、組合長室に、俺たち二人と、その解体の職員、それに何故かDランクの冒険者が3人集められていた。


「まず、解体職員からの報告を聞いてくれ」


組合長が、話を進める。


「では、報告します。

オーガキングとオークキング、オーククイ-ンの遺体の傷が一致しました。いずれも、魔法の攻撃によるものでした。それから、倒された時刻がほぼ同時刻であることも分かっています」


「Dランクの冒険者、誰か当時の状況を話してくれ」


「では、俺が代表して話します。

防衛の当日ですが、防壁の門を最初オーク3体に突破されてしまいました。

そして、その後にキングとクイーンが現れてしまい、俺たちはその場で脚が竦んで動けなくなってしまいました。

すると、どこからか魔法職のローブを羽織、杖を持った人物が現れました。

その人物は、オークと対峙するなり最初の3体の首を一瞬の内に刎ねてしまいました。そして、次にキング、クイーンと光の矢をもって倒してしまいました。

時間にして、2分も掛かっていないと思われます。...以上です」


「他の二人も同じ意見かな」


残りの二人も同意の頷きを返した。


「どう思う、ボブとサップ」


「オーガキングを倒したのも同一人物でしょう。

光属性の攻撃魔法を使える人物は、数が少ないですからね。

でも、気になるのはその威力ですよね。文句なしにSSSの実力者でしょう」


「俺もそう思う。だが、この辺りで活動しているとは聞いていないんだが」


「俺も気になって昨日調べてはみたが、該当する人物は居なかったよ」


組合長でも分からなかったらしい。


これ以上は調べようが無いという事で、真相は分からずじまいだったが話し合いの場はここで解散となった。

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