第7話 氾濫

組合長がホールにおいて氾濫の予兆があると説明してから三日、それが現実となってこの街に向かって魔物たちが森から本格的に動き始めたようだ。


偵察に出ていたSランクの冒険者も、すでに街へと戻っている。


各ランクの冒険者たちも、この三日の間に自分たちに割り振られた仕事を終えていた。


二日後......。

街中に、警報の鐘が響き渡る。


住民には昨日の段階で前もって避難指示が出されていたので、領主の城、及び各地区にある避難指定場所に避難が終了していた。


わたしたち組合の職員は、強固な造りとなっている組合の建物内で情報の収集にあたる事になっている。


偵察に出ていたSランクの冒険者の報告から、今回の魔物の種類と数はある程度把握しているので防衛する冒険者たちの連携が上手くいけば鎮圧に成功するだろう。


街の中は、騎士団と衛兵が巡回して対応することが決まっている。



午前八時、防壁の外で冒険者と魔物の戦闘が始まったと、組合に報告がはいった。


その報告に、わたしもだけど周りにいる職員にも緊張が走る。


多少の怪我人は出ても、死亡者が出ない事を祈ろう。



この日の戦闘は、夕方近くには終わった。

報告書によるとゴブリンとオークの集団だったらしく、怪我人は多数出たようだが死亡者は出なかったと書いてあった。


ただ、Dランクの冒険者の中に重傷者が出ているらしく、報告書を読んだ後、シンシアさんとわたしは防壁の近くに設置されている医療テントへと連れて行かれた。



翌日......。

シンシアさんとわたしは、何故か昨日の訪れた防壁の近くに設置されている医療テントの中にいた。


そして、そばにいる組合長から...


「今日の戦闘には、C・Bランクの魔物がやって来る。

数は大した事は無いが、強力な魔物なので怪我人が増える事が予想できる。

そこで君達には、ここで重傷者の治療に専念して欲しい」


組合長に説明を受けたわたしたちは、「はい」と返事をするしかなかった。


午前中は軽傷者ばかりでわたしたちの出番は無かったのだが、午後になり重傷者が出始める。


しかも、A・Bランクの冒険者までいるのだ。


「シンシアさん、まずく無いですか?」


「A・Bランクの冒険者に、重傷を負わせるほどの魔物がいるという事よね」


「前線は大丈夫ですかね」


「今回はSランクの冒険者も二人いるから何とかなるんじゃない」


シンシアさんのその言葉に、わたしは少し不安があったのだが。


その頃、現場では混乱が大きくなりはじめていた。



まず最初に理解しておかなければいけないのは、ここはラノベで書かれているような世界ではないという事だ。

まぁ、全部が全部という訳でもない。

こう言ってしまうと、えっ!となると思うが...

魔物の強さはほぼ同じであること、ただ冒険者の個の強さが足りないのだ。

この世界のSランクの冒険者の強さは、ラノベの世界でのAランクの冒険者ほどしかない。


それは、冒険者のランクが魔物や盗賊などを討伐した時のポイントや常設依頼を完了した時のポイントでランクアップしていくからだ。

なので、Aランクの魔物に対峙する時は、Sランクの冒険者でも数人がかりで対応する必要がある。


ここでは、個の強さではなくパーティーとしての強さの方が優先しているのだ。



わたしは、治療行為をおこないながらも少し不安があったので、探索魔法も同時に使用して半径200mほどの広さを索敵していた。


「シンシアさん、ここも危ないかもしれません」


わたしの突然の言葉に困惑の表情を見せるシンシアさん。


「えっ、どういうこと?」


「魔物が防壁の門を抜けて来ました」


わたしは、簡潔に答える。

戦いたくは無いけれど、目の前で知っている人が傷付くのは嫌だ。


「シンシアさん、ここを離れないで下さいね」と言うと、わたしはローブを羽織い杖を持つと医療テントを飛び出した。


この街に来て一年と数か月、わたしは隠れて訓練はしていたのだ。

一人でも生きていけるようにと。


そして、杖が無い状態でもわたしは魔法の威力と精度はコントロール出来るようになっていた。ただ、周りから変な目で見られないように杖を使うのである。


それと、魔法少女にはやはり杖が似合うのだ。


待てよ、もう大人だから魔女か!嫌だぁ~!

でも見た目は若く見えている様だからギリギリ魔法少女でセーフか、などと一人で葛藤していると目の前に魔物が現れた。


全部で数は5体、オーク3体にオークのキングとクイーンが1体ずつだ。


そして、近くにいたDランクの冒険者たちは脚が震えて、立っているのが精一杯の感じだった。


戦闘は先手必勝‼


わたしは、立ち尽くすDランクの冒険者などには目もくれず、杖を振るい風の刃でオーク3体の首を一気に刎ねた。


声も発せず前のめりに倒れるオーク3体。


そして、間髪を入れずにキングの眉間に光の矢を打ち込む。


後方へと倒れるキングの身体。


その様子を見ているクイーンのこめかみにわたしは光の矢を打ち込んだ。


クイーンの身体がキングに重なるように倒れた瞬間、戦闘は終了となった。


それは、時間にして90秒ほどの出来事だった。

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