第6話 変わりゆく日常

数日後......。


先日の冒険者パーティーは、寸でのところで助け出された。

そして、毒に侵されていた女性も既に回復して冒険者として復帰している。


命の軽いこの世界では、奇跡と言えるだろう。


「ユリアちゃん、これお願いね」


「もうお仕事をしても、大丈夫なんですか?」


「えぇ、私たち全員覚悟を決めたから。あの時は、どうにかなるだろうと何処か高を括っていたのよ。冒険者としての覚悟が出来ていなかったのね」


「でも、生きて帰ることが一番大事なことですよ」


「分かっているわよ、一度助けてもらった命ですもの大事にするわ」


会話をしながらも、わたしは窓口業務を滞りなく終わらせる。


「こちらが依頼票になります。気を付けて行って来て下さいね」


彼女たちは窓口にいるわたしに手を振りながら組合を出ていった。


◇◇◇◇◇


それから、更に数日後......。


「ユリアちゃん、男の冒険者に対して怯えは無くなったかしら」


シンシアさんが突然そんな事をわたしに行ってきた。

それに対して、「えっ」と苦悶の表情を浮かべるわたし。


「冒険者の方から要望が凄いのよ、ユリアちゃんに依頼の受付をして欲しいと」


「何でそういう事になるんですかね」


この組合に勤めている窓口の受付嬢は、みんな美人で容姿端麗の女性ばかりだ。

そういう要望があること事態が、わたしにとっては不思議でならない。


「それはね。貴女が若くて独身だからよ」


そう言う事か。


シンシアさんも美人で容姿端麗だが、若くても既に既婚者だ。

しかも、お相手はSランクの冒険者だし横槍を入れる馬鹿はいない。


「でも...わたしは、男性に興味はありませんし。

今のままの方が、窓口業務をやりやすいのですが」


「それも分かってはいるの。

そうね、最初は既婚者でAランクの冒険者限定にしましょうか」


チーフであるシンシアさんに、そこまでの妥協案を提案されてしまうと、わたしには断るという選択肢はないに等しい。


「分かりました。シンシアさんの顔に泥を塗らないように、その提案を受け入れます」


「良かったわ。明日からお願いね」


こうして、わたしは窓口で男性の冒険者を相手にする事となった。



翌日......。


「ユリアちゃん、俺たちにお薦めの依頼は何かあるかな」


「少々お待ちください」


わたしは、Aランクの冒険者パーティーの皆さんに合った依頼を、書類の束の中から探していく。


「この依頼などは如何でしょうか。皆さんの実力ならこの依頼は簡単かも知れませんが」


「いやぁ、こいつはこの前の依頼で少々てこずったんだよな」


「最初は誰でもそうですよ。今回は二度目ですから、前回の反省も踏まえて準備をしてから挑んで下さい」


「確かにそうだな。二度目だから準備する物は分かっているしな。

分かった、その依頼受けよう。お前らもいいな」


わたしの、説明に彼の仲間も納得してくれたようだ。


「では、気を付けて行って来て下さいね」


彼らはわたしのいる窓口の方へ手を振りながら組合を出ていった。



「ユリアちゃん、ナイスよ。ああいう場合、一度目でてこずってしまうと二度目の時に苦手意識が生まれちゃうのよね。それに対して良いアドバイスだったわ」


「ありがとうございます」


「さぁ、次が来るわよ」


初日というのに、次から次へとAランクの冒険者がしかも男の冒険者だけという悲惨な一日を過ごしてしまった。


「あ~、癒しが欲しい」



組合のお仕事が終わり宿に戻ると女将さんに挨拶をする。


「ただいまー」


「あら、お帰りなさい。随分と疲れた顔をしているわね。

そんなに、大変だったの」


「え~と、男の冒険者ばかりを一日中相手にしていたので疲れました」


「でも、Aランクの冒険者で既婚者ばかりなんでしょ」


「それでもです。女性相手の方が話も合いますし、気を使わなくても良いですから。

男の人だと言葉遣いを気を付けないと、勘違いされそうで気が抜けないのです」


「まぁ、それはそれで大変ね。ユリアちゃん結婚する気は無いの」


「まったく、その気もありません」


「綺麗で容姿端麗なのに残念ねぇ」


宿に戻り、女将さんといつもの会話をして、気持ちが落ち着くとわたしは自分の部屋へと向かうのだった。



一月後......。

朝いつものように組合へと出勤すると、ホールの中がざわついていた。


わたしたち職員は、組合の建物に入るときは裏口から入るようになっているので、窓口まで出て来ないとホールの状況には気が付かないのだ。


「シンシアさん、今朝は冒険者の皆さんの雰囲気が普段と違いますが、何かあったんですか?」


「私もいま来たばかりなの。もう直ぐ組合長から話があると思うから」


その時、二階から組合長がホールへと下りて来た。


「冒険者の諸君、集まっているな。

偵察に出ていたSランクの冒険者から、昨夜のうちに連絡があった。

魔物の氾濫が起きるかも知れないと。

そこで、防衛をする為の準備をしなければならない。

クラスごとに任務を割り振って有る、この紙を掲示板の方へ貼っておくから確認しておくように。

それから、窓口の受付嬢は冒険者の組合証に緊急要請の記録を書き込んでおいてくれ。以上だ!」


この世界に来て、初めてのイベントが起きようとしているみたいだ。

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