第100話 停戦、その後


 ハルマイネの内乱を調停し、軌道エレベーターを建設した艦隊はアギラカナに無事戻って来た。


 この間、日本国内では総選挙が行われ、民自党が議席数で単独過半数を軽く超え、後少しで三分の二に迫る議席数を獲得した。これに潜在与党の議席数を加えると衆議院の三分の二の議席を越えることになり、初めての憲法改正が視野に入って来た。


 今回の選挙の結果、高一民自党総裁が両院で総理に選ばれ続投が決まり、閣僚の交代もなかった。


 これまでにも、外国人献金問題が取りざたされてはいた元閣僚を含む今回の選挙で落選した元与党議員たちが、これまでと異なり、摘発、起訴されていった。また、外国人による多額の「迂回献金」問題も複数明るみに出るに及び、法的規制を設けるべく議論が開始されたようだ。



 日本政府はアギラカナとの選挙前の話し合いに基づいて、移民の積極推進に軸足を移した。


 今後、アギラカナへの移民が進むことにより日本国内での一層の人手不足が進むことは明らかなため、アギラカナでは、人型の高性能・・・ロボット(あくまで地球基準)の日本政府への無償提供を行うことにした。日本からの移民一家族に対し、ロボット二体を日本政府に貸し出す予定だ。単身の場合はロボット一体が建前だが、アギラカナから見た場合、ロボットのコストなどはないに等しいので、結局一律二体になると思う。


 このロボットは資格の必要な、いわゆる先端の知的労働には就労できないようデチューンされているが、自律的判断が可能で作業効率が非常に高いため、日本政府によるすみやかな規制緩和とともに労働力不足に悩む業界に使用料が極めて安価であることも相まってすぐに受け入れられ広まって行くと考えている。もちろん、農業や漁業のほか運送業や小売業などでも活躍が期待できる。


 このロボットは日本政府に貸し出したものだが、移民を理由に退職した者の出た企業に優先して再貸し出しされるように日本政府と取り決めしたため、自社社員に対し積極的に移民に応じるよう勧める企業も出始め、今後、日本の社会問題に発展しそうな勢いがある。


 もちろん、移民センターの定員、移民センターの数も徐々に増えている。おそらく募集期間の短い今期でも三十万人の移民、家族をふくめた実数にして七十万人程度がアギラカナに向けて旅だつものと考えられている。年間換算で、実数百万人を超える数字である。


 これまで、移民の子弟に対しての教育は、当面日本の高校レベルまでの教育をアギラカナで行おうと考え、それ以上の教育については日本への留学という形で済ませようかとも考えていたのだが、これだけの人口に対し大学レベルの教育機関はやはり必要と思い直し、移民先のサツマイモ島に総合大学を設けることにした。サツマイモ島の島名であるが、すこし格好が悪いと不評のようだ。何も考えずに俺がそう呼んでいただけの島名なので、そのうち住民が勝手に名前を付けるだろう。


 総合大学からは、一部アギラカナの専門教育プログラムを導入し、能力がありかつまた希望するものには、その先の研究を続けるための大学院や付属研究所も作る予定である。


 将来的に、そういった研究機関から、アギラカナの科学技術を引き上げる人材が現れることを期待している。



 さて、ハルマイネでの調停の結果、ハルマイネの隣の星系内の一惑星を地球からの移民先としてリザーブすることができた。移民の開始は早くとも数十年先になることはアルゼ側に告げている。


 アギラカナ内への移住なら、どんなインフラだろうが短期間で作り上げることが可能なので全く問題ないが、ハルマイネの先への移民では大規模なインフラの整備が一から必要になる。とはいえ、工作艦一隻と資材を満載した輸送船をそれなりに送り込めば、工作艦で用途に応じた作業船を作り簡単にインフラなどは作り上げることができるので、移民計画が具体化したあとからインフラを整備したとしても、何も心配はいらないだろう。


 そちらの方面への移民の件が具体化するのはまだまだ先の話だが、アルゼとの取り決め通り、ゼノ警戒用の探査機を多数アルゼ領域周辺に配置している。この数は今後も増やしていくつもりだが、いまの配置数でも、ゼノ襲来の50年前には警告を得ることができる。太陽系に迫ってきているような超大規模のゼノの集団でも来ない限り、われわれアギラカナが撃退するつもりだ。


 そういったことで、大まかな筋道は立ったと思おう。


 これで地球人の中からたった一人選ばれて惑星型宇宙艦アギラカナの艦長となった俺の心配事がようやく無くなったようだ。


 会社員時代、夜空に流れる流れ星を見て以降、本当にいろいろなことが起こったが、そろそろ俺も引退する潮時だろう。




[あとがき]

初めての憲法改正:ここでは初めてとしました。申し訳ありません。

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