第76話 掃討2


 マルコ提督のアルゼ艦隊は、ミトカナ星系外縁部で我々が行った惑星破壊からのゼノ殲滅作戦の観測を終え、同星系外縁部に建設されていた小型のハイパーレーンゲート使用して星系を去っている。首都惑星アーゼーンに配置した探査機からの情報から、アルゼ艦隊はアルゼ中心星系ハミラピラトラへ帰還したようだ。


 アギラカナがミトカナ星系への超空間ジャンプを行っている五日間のうちに、恒星間空間を移動中のゼノの現在位置がジャンプ前に放ったこちらの探査機によって判明していた。ジャンプアウト後、間を置かず探査機からの情報がアギラカナにもたらされ、総数九十万ほどのゼノが恒星間空間を移動中であることが分かった。


 すでに、解放したアルゼ艦隊を通じアルゼ帝国内での軍事作戦行動をとることは先方に通達済みである。通達に対するアルゼ政府からの反応はいまだ無いようだが、アルゼ側が具体的敵対行動をとらない限り、こちらは作戦を粛々しゅくしゅくと進めるつもりだ。


 惑星シノーにおけるゼノを殲滅後、間を置く必要はないのですぐにゼノを追撃することにした。アギラカナをゼノの集団の後方に遷移させ、艦隊をもって殲滅する。


 たまたま、太陽系に現れたアルゼ帝国の探査艦に端を発し、一連のゼノの発見につながった。


 いや、たまたまではないか。ゼノの襲撃から危機感を覚えたアルゼ帝国が植民先なり、移民先の惑星を求めて多くの星系を素通りして太陽系に探査艦を派遣していたわけだ。不思議なものである。




「ジャンプ機関起動、目標、恒星間空間、座標……」


「目標、恒星間空間、座標……。ジャンプ機関起動二十秒前、十九、十八、‥‥‥、二、一、起動!」





「目標確認。アギラカナより距離0.5AU。光速の15パーセントで移動中。総数九十万」


「2番から5番シャフト開放!」


「第1、第2艦隊出撃!」


「シャフト閉鎖!」


 各艦隊に割り振られたシャフトから次々に艦艇が出撃していく。ゼノそのものに知性が有るのかは不明だが、我々の攻撃手段に対抗するすべを現時点で持っているとは思えないので、安心して艦隊の出撃を見送ることが出来た。




「全ゼノの撃破確認しました。総数九十万千二百三十二」


「全攻撃機帰投します」




 恒星間空間において被害を出すことなく、ゼノを完全撃破することが出来た。艦隊の収納も終え一息ついた後で、今は定例の反省会をいつものメンバーで行っているところだ。



「閣下、さすがに今回は安心して見ておれましたな」アマンダ中将も落ち着いている。


「そうですね。初めての時は緊張しましたが、攻撃法のパターンが出来た今ではだいぶ安心です。過剰攻撃気味でしたが、損害を受けるよりましですので問題ないでしょう」


「閣下、今回の一連の作戦行動でアギラカナの反物質備蓄が員数の60パーセントになりました。完全充足まで約一カ月を要します。その他の戦略物資については問題は有りません」と、兵站部のフローリス少将。


「主砲発射で反物質をかなり消費しましたが、アルゼ艦隊に依頼して送ってもらった遠方からの主砲弾炸裂映像。いやー、惑星が主砲弾で吹っ飛ぶところを見事にとらえてました。見事なものです」


 ポンポン惑星を破壊してしまうのが良いこととは思えないが、アマンダ中将はよほど嬉しかったようだ。



「閣下、気になる情報がアルゼ帝国主星アーゼーンに配置した探査機から入ってきています」


「ん? ドーラ少将、何ですか?」


「解放したアルゼ艦隊ですが、マルコ提督以下全員が拘束された模様です。理由は敵前逃亡ということになっているようですが、惑星シノーおよび我々アギラカナの情報秘匿のためと思われます」


「国民に余計な情報を与えたくないというのは為政者とすれば当然の感覚かもしれませんが、拘束理由が敵前逃亡と言うことは最悪死刑もあり得るでしょうから、気の毒な話ですね。知らない人でもありませんから何とかできればいいんですが」


「今回の我々の一連の作戦行動に対し、アルゼ側から抗議くらいあるものと思っていましたがアルゼ帝国も案外おとなしいもんですね。こちらに対し軍事オプションを選択してくれていれば介入しやすかったんですが。介入の口実としてはマルコ提督以下の解放というのは少し弱いですし」


 エリス少将はどうもアルゼ帝国に対し陸戦隊を投入したいようだ。いや、この人はどこでもいいから陸戦隊を投入したいように見える。


「今後のことを考えますと、アルゼに対して直接的軍事行動を起こすことは得策ではありません。ここ一連の作戦行動の記録映像をアルゼ内に流してみましょう。そうすればアルゼ政府はかなり動揺するでしょうし、マルコ提督たちを拘束する必要もなくなります」


「閣下、今後のことといいますと?」


「将来的には、アルゼとも交易を行っていきたいと考えています。ここで、アルゼと事を構えてしまうと国民感情が悪化してしまい正常な形での国交樹立は難しくなるでしょう」


「ゼノそのものの脅威は今後も続いているわけですから、探査機をアルゼ全域にばら撒いて早期警戒網を作ってやればアルゼ政府もさすがに我々に感謝するんじゃありませんか? 太陽系周辺の探査網は既に出来上がっていますから今後百年は太陽系に対するゼノの脅威は迫りません。アルゼに対しリソースを割り振ることは簡単です。どうせ閣下はそのつもりなんでしょうし」


「アルゼ帝国といえども、みすみすゼノに蹂躙じゅうりんされるのを見過ごせませんからね。とはいっても、無理をする気は有りません。こちらに人的被害が出ない範囲で対応するつもりです。まずは、アルゼ国民に対して私から挨拶あいさつしましょうか。記録映像を流しながらだと迫力もあるでしょう。ところで、アルゼにはテレビのような物は有るんですよね?」


「映像付きの放送は国営放送が一波流れているようですが、これは、街角などに設置された映像受信機でしか見れないようです。一般家庭ではラジオに相当する放送を聴いているようです」


「なんだか、ちぐはぐな世界なんですね。

 マリア中佐、テレビとラジオ全帯域で放送しよう。準備を頼む」


「了解しました」






「アルゼ帝国にお住いのみなさん、私は宇宙船国家アギラカナの代表を務めます山田と申します。皆さんの主星系ハミラピラトラより約300光年の距離にある太陽系から皆さんにあることをお伝えするためこの放送を行っています」


 俺の日本語が同時通訳装置によりアルゼ語に翻訳されて、探査機を送り込んでいるアルゼ内の主要星系、主要惑星に対し全帯域で流れているはずだ。


「これから映します映像はアルゼ国内でシノーと呼ばれる惑星で実際起こったことです。この惑星にはあなた方アルゼ人が約二十万人が生活していたと思われます」


 惑星シノーがゼノの衝突によって破壊されるさまが映像として流れている。どれだけのアルゼ国民がこの映像を見ているのかはわからないが、それなりのインパクトはあるだろう。アルゼ側はこの放送に対し混乱しているようで、各所に設けられた映像受信機が停止されることもなくこの放送が流されているようだ。


「この破壊をもたらしたものは、ゼノと我々が呼ぶ宇宙生命体です。ゼノの質量は最大四百万トン。この質量が光速の15パーセントに達する速度で惑星に激突します。一撃でもゼノの衝突を惑星が許しますと地表の生態系は壊滅します。さきほどお見せした惑星には、このゼノが約五万激突しています。ゼノ自体は非常に硬質の外殻で鎧われているため、おそらくアルゼ帝国の保有するいかなる兵器によっても撃破不能と思われます」


「われわれアギラカナはこのゼノを駆逐するためアルゼ帝国内での作戦行動の許可をアルゼ政府に求めましたが依然返答を頂いていません……」


 その後、恒星間空間におけるゼノの掃討の映像が続いた。


「今流れている映像は、我々が昨日ゼノを掃討した時の映像です。撃破総数は九十万に及びます。

 今現在、皆さんのアルゼ周辺にゼノが潜み惑星を破壊しようと移動中かもしれません。アギラカナはアルゼ政府に対し、ゼノに対応するための話し合いを行うことを提案いたします。我々は、皆さんの主星系ハミラピラトラへ超空間ジャンプを行い転移します。これより十二時間後、ハミラピラトラからアーゼーンを結ぶ延長線上10AUの星系外縁部にジャンプアウトしますので近傍への接近はご遠慮ください」



[あとがき]

人名確認

宇宙軍:山田大将 +航宙軍:アマンダ中将

         +陸戦隊:エリス少将

       +探査部:ドーラ少将

       +兵站部:フローリス少将

         +その他

全般:コア、マリア中佐(宇宙軍専任)


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現代ドラマ・短編『山のあなたは耳遠く』

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なろうからの加筆転載です。よろしくお願いします。


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