第49話 作戦宙域到達


 もう何年も経つが、親父が亡くなる数日前、久しぶりに意識がはっきりした親父と交わした約束を思い出した。


「圭一、お前の会社に一条佐江と言う名前の子がいるだろう」


「良く知ってるな、去年、俺の下に配属されてきた子だ。その一条がどうした?」


「圭一、その子に何かあったら力になってやってくれ」


「何でだ?」


「大人の事情だ。察してくれ」


「良くはわからんが、親父の最期の頼みだ、引き受けた」


「頼む……」


 大人の事情が何なのかは想像するしかないが、俺も安請け合いをしたものだ。ただ、一条は自分の両親は既に他界していると言っていたことを思い出して、親父の最期の頼みだしできることはしてやろうと思っただけだ。




 重力スラスターを複数まとめ、ゼノを閉じ込め自滅させる重力井戸を効率よく作り出す重力装置とその引力に抗するためのカウンターの重力スラスターをまとめて、ゼノブラスターと名付け、軽巡以上の戦闘艦に取り付けることにした。能力に余裕のある大型艦には多数のゼノブラスターを取り付ける方針だ。ただ、カウンターの重力スラスターは、複数の重力井戸の位置をうまく調整すれば不要となるので、一考の余地はある。


 また、中性子星を重力崩壊させブラックホールにしてしまう装置をNSコラプサー(中性子星崩壊砲)と名付けた。砲とは言っているがもちろん砲身などはない。二十四基の巨大な重力スラスターとそれに関連するエネルギー装置、照準装置、制御装置からなる兵器システムだ。


 アギラカナには、NSコラプサー一式と、多数のゼノブラスターを取りつける作業の他、ジャンプドライブを取り付ける作業が行われている。作業が進められる間、往復二十四年間の時間を潰すため、映画やら、ドラマ、アニメなどのコンテンツを大量に購入した。もちろん食材もだ。食材は無酸素状態で冷凍保存するとかなりの長時間保存が可能らしい。まあ、無くなったら無くなったで、精密生体情報は主要動植物で揃っているので、簡単にアギラカナ内部で生産できるそうだ。




「一条、俺は明日から少し長く留守にするから、俺のいない間、アインと相談してうまくやって行ってくれ」


「わっかりましたー」


 いつもと同じように、一条が元気に返事を返した。頑張ってやっていってくれ。


「それと、先輩今までありがとうございました」


 そのまま、ぺこりと頭を下げた一条が七階に下りていった。アインにでも事情を聞いたのか。


 アインと秘書室の面々、工作艦、強襲揚陸艦AA-0001-ブレイザーには、太陽系に残ってもらうことにした。ブレイザーは当初、陸戦歩兵が一個大隊欠員だったが、今は完全充足四個大隊+八個小隊、増強一個連隊三千六百名の陸戦隊員が乗艦している。俺が四半世紀後に地球に帰ってきたら、一条が地球大統領になってるかも知れんな。アギラカナ不在時の日本への金属資源供給用に複数の大型輸送船も資源を満載して用意してあるのでこちらの方も問題ないだろう。




 往復二十四年か……




「ジャンプドライブ起動、目標4U 0142+61、最接近可能位置」


「目標4U 0142+61、最接近可能位置。ジャンプドライブ起動二十秒前、十九、十八、……、三、二、一、起動!」





 あれから、十二年。一言で言うと暇だった。それで俺はへたな小説を書きまくった。帰ったら俺は小説家になるんだ。ん? まずい、これはフラグか? それはないな。


 ペンネームはそうだな、山のふもとで遊んでいる人、山口遊子(ヤマグチユウシ)、なかなかいいペンネームだ。現アギラカナ代表の書いた小説だ、売れないわけがない。


 もう数分でアギラカナは目標位置に到達し、通常空間に復帰する。艦の外の超空間は観測不能だそうだ。俺はアギラカナの中央指令室の艦長席で状況を見守っている。通常空間に復帰すれば、そこはゼノの本拠地ともいえる場所だ。すぐに作戦が始まる。俺も流れに流されてとうとうここまで来てしまった。気を引き締めよう。


「閣下、作戦開始に際して、お言葉を」


 航宙軍アマンダ中将。今回の長期作戦でも俺の副官を務めてくれている。


「諸君、この十二年間よく耐えてくれた。これからが正念場だ。作戦を成功させてゼノの禍根かこんを断とう」



「アギラカナ、通常空間に復帰します。……、十、九、八、……、二、一、今!」


 灰色だったスクリーンに、青白く光り輝く中性子星4U 0142+61が映し出された。


「……アギラカナ、全艦正常」「4U 0142+61までの距離、0.5AUです」


 通常空間に復帰後、地球に残ったアインと短い超空間通信を交わし、互いに異常のないことを確認した。




[あとがき]

ここでいきなり明かされた、一条と作者の重大な秘密。


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