第17話 太陽系に帰還
アインと日本国との国交樹立について話し合った三日後。 陸戦隊司令官エリス少将から連絡が有り、H3級強襲揚陸艦の準備が整ったそうだ。
俺は、アイン以下秘書室の面々四名を伴い、迎えの連絡艇に乗るため、コア内部と第1宇宙港をつなぐシャトルを降りてアギラカナ艦長専用の第1桟橋の方に歩いてゆくと、すでに連絡艇は桟橋の上に着陸していた。
宇宙空間に待機中のH3級強襲揚陸艦AA-0001からの連絡艇だ。連絡艇の扉はこちらを向いて大きく開いている。扉の前には制服を着た兵隊?さんが四人づつ左右に並んで例の敬礼で俺たちを迎えてくれた。秘書室の面々も手に持った大き目の荷物をいったん降ろし答礼をしているようだったので俺も真似て、右手でグーを作って、左肩口に当てて敬礼してみた。これでいいのかな?
前回地球で乗った連絡艇では扉が見当たらなかったのだが、このタイプのものは、兵員の急速展開を行うことも考慮し、扉が左右の舷側に設けられているそうで、艇の中に入ると、一つ一つがかなり大きな座席が二列×八組、計十六個並んでいた。アインの解説によると、戦闘用の装甲服を着たまま着席できるように座席が大きく作られており、作戦時には、艇外への急速展開のため座席は背中合わせになるそうだ。今は座席は前を向いており、俺はその一番前の席に座らされた。
俺の隣に座ったアインに、桟橋から転送装置で、一気に艦に乗り込めば簡単じゃないかと尋ねたら、将官は、連絡艇で艦に乗り込まなければいけないといわれた。確かにお偉いさんがいきなり後ろから現れたら現場はビックリするからなと思い、どこでも同じなんだと妙に納得した。
俺たちが席に着くと、すぐに連絡艇は出発したようだ。巨大なシャフトの中を上昇していったのだろうが、連絡艇に窓はないため外の様子がわからない上に加速感もないのでどういう状態なのか見当もつかない。すべてアインの解説だ。
五分ほどで、左側の扉が開いた。後ろに座っていた兵隊さんたちがすぐに、艇の外に走り出し、二列に並んで残った俺たちが連絡艇から降りるのを待っているようだ。遅れて席から立ち上がり、扉の外へ出ると、そこは今乗って来た連絡艇と同じ形のものや、もっと大きなもの、もっと小さなものなどが並んだちょっとした空港のような場所で、扉の左右に並んだ、迎えの八名のほか、前方の少し離れた場所に、例の黒っぽい軍服を着た三名とその左右に鈍い銀色の装甲服を着た十名くらいの兵隊さんたちが整列していた。
われわれが、艇を出て前に進むと、前方に立つ三人がこちらに近づいてきて、例の敬礼をしてきたので、俺も答礼した。
「宇宙軍司令長官閣下、H3級強襲揚陸艦AA-0001にようこそ。私は艦長のブリュース・タリムテです」
長身の艦長さんだ。巡洋艦LC-0001の艦長さんもイケメンだったが、こっちの艦長さんもイケメンだ、何かそういった基準、規則でもあるのか?
何だかAA-0001とかLC-0001とか味気ない。そのうちなんかいい名前をあとで考えてやろ。
「こちらこそよろしくお願いします」
「副長のマーサ・エギナンテです」
こちらは中肉中背の三十代くらいの黒髪、短髪の女性だ。無重力状態になる可能性がある場所で、長髪はないよな。それこそホラーだ。
「陸戦隊長のカムデン・ナバイテです。よろしくお願いします」
さすが、陸戦隊の親分、ごつくてでかい。
「それでは、AA-0001についてお話しながら、中央指令室まで向かいましょう」
歩きながらブリュース艦長が説明してくれるそうだ。
「本艦は、一辺360メートル長さ3600メートルの正六角柱型をしたH3級強襲揚陸艦です。
陸戦歩兵を1個連隊+アルファの三千六百名の搭乗が可能ですが、現在は連隊のうち1個大隊欠員で、3個大隊二千四百名の陸戦歩兵が搭乗しています。なお、陸戦歩兵一名に対し、無人支援兵器が最大十二機随伴します。
当艦に搭載する艦載機は、攻撃機が四百八十機。内、大気圏内作戦可能機が四百二十機で、さらにその中の六十機が水中作戦可能機となっています。艦載機は完全充足状態なので予備機も定数である十パーセント相当の四十八機を積んでいます。攻撃機には、作戦内容により無人支援機が最大六機が随伴します。他に陸戦用として追加の無人支援兵器を積んだ機動装甲車両を九十両搭載しています。さらに、支援用として、……」
「……本艦の護衛に、航宙軍に所属する、S2級巡洋艦LC-0001を旗艦とする0001雷撃戦隊が同行します。彼らは基本的に惑星制圧戦には参加せず、本艦の護衛のみ行います」
地球を制圧しに行くわけじゃないから。大丈夫なのか? 知らないうちに、俺が地球の皇帝陛下になってるってことないよな。
道中、敵がいるとは思わないが、前回俺をアギラカナまで運んでくれたS2級巡洋艦LC-0001が率いる雷撃戦隊が護衛につくそうだ。しかし雷撃戦隊の番号が4桁って多くないか?
説明を受けながらかなり広い通路を歩いてゆくと、もっと広い通路に出た。通路というか広場だった。そこに軍服を着た人が何列にもなってずらりと整列している。
「閣下を一目見たいと、部下が言うものですから、陸戦隊三個大隊二千四百名全員が整列しています」
カムデン陸戦隊長が説明してくれた。
式典の時は実感がないまま流されているうちに式も終わってしまったのだが、なんだか、これはえらいことになったんじゃないか?
二千四百名が見守る中、中央指令室という名の体育館に到着した。空中にいろいろな図柄が何枚も映し出されている。何かの作戦図なのだろう。俺たちが入室すると、部屋の中にいた人たちが一斉に立ち上がり、こちらを向いて敬礼してきた。
仕方ないが俺も答礼すると、みんな席についてくれた。ほっとするよ。俺が答礼しなかったらこの人たちずっと立ちっぱなしだったのかな? 後ろについて来ているアインたちの誰か気付いて注意してくれたとは思うが。
二時間ほど、体育館の一番後ろの一段、いや二段ほど高いところにある、司令官席に座らされてぼーとしていたら、正面のスクリーンに赤いわっかが見えて来た。ハイパーレーンゲートのようだ。薄赤いゲート面にLC-0001と
「0001雷撃戦隊、全艦ハイパーレーンゲートを通過しました」
「本艦も続いて、ハイパーレーンゲートに進入します。二十秒前、十九、十八、……、ハイパーレーンゲート進入」
正面のスクリーンから薄赤いゲート面が消えたと思ったら左手に特徴のある惑星、木星が見えた。
太陽系に帰ってきたようだ。
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