第16話 対日国交交渉、方針


 外周部、第一層で自然の中のピクニックを楽しみ、俺の私邸をどうするか秘書室の面々が話し合った日の翌日。


 アインが、暇そうに机に向かってネットニュースを眺めている俺のところに来て、


「艦長、艦長の私邸は外装工事まで完了しました。あとは内装になりますが、地球から畳などの資材待ちで一時休止しています。それと他部署の高級士官達が、艦長秘書室のわれわれだけ、地球産の食品を食べているのを知り、自分たちも地球産の食品を食べてみたいという要望を寄せています」 


「そりゃそうだよな、チューブに入った栄養食と、地球、特に日本の食べものと比べれば誰だって地球の料理が食べたくなると思うよ。そうすると、早いとこ俺の住んでいた日本でいいから国交を結ぶ必要があるな」


「それに、艦長私邸の中の備品なども日本国などから購入する必要がありますので、早めに国交交渉を行う必要があります」 


 自分の家のために国交樹立とは、スケールがでかいのか、小さいのかわからんな。


「俺も素人なんで国交を結ぶために何をすればいいか教えてくれないか?」


「平和的な交渉を前提としますと、まずはアギラカナの存在を相手国に認知させ、次に、国交樹立した場合に得られる利益を相手国に知らしめることだと思います。得られる利益が大きければ問題なく国交は樹立できると思います」


「ちなみに、そうじゃない場合は軍艦でも送って地球征服とかするわけかい?」


「その通りです。艦砲射撃と艦載攻撃機で軍事施設を破壊し、その後強襲揚陸艦に搭乗した陸戦隊を降下させて地表を制圧することになります。

 地球の戦力および軍事施設の詳細データはすでに調査済みですので、何種類かのパターンで侵攻作戦のシミュレーションを行いましょうか?」


 冗談で聞いたつもりだったが、わりと本気で返されてしまった。家を建てようと思っただけで地球侵攻とかないだろ。


「そうだな、シミュレーションくらいはしておいた方がいいか。だけど今回は平和的に頼むよ。平和的に進めるとして、具体的にはどうすればいい?」


「平和的かと問われれば違うのでしょうが、アギラカナの圧倒的武力の一端を見せたうえで、こちらではなく、先方に有利な条件を提示し国交樹立を求めるのはどうでしょう」


「武力の一端とは?」


「強襲揚陸艦でも対象国の首都の上に乗せてやれば、いいんじゃないでしょうか。H3級強襲揚陸艦ですと、それなりに見栄えもいいのでよろしいかと。実際、完全充足、フル装備のH3級強襲揚陸艦一隻あれば、地球上の軍事施設の制圧は短時間で終りますし、軍事施設の破壊のみでいいなら艦が地球を一周する間に完了します」


 どうもアインは思考が軍事にかたよってるな。平和ボケの日本人とは違うか。


「実際ドンパチするわけでもなし、砲艦外交でもいいか。H3級って船の形と大きさのことだろ。どれくらい大きいの?」


「H3級は、一辺360メートルの正六角柱型で、全長は3600メートルです」


 一辺360メートルの正6角形だと最大幅は720メートルになる。そりゃ、そんなのが自分の頭の上にやってきたらだれだってビビるよ。


「それじゃ、先方の有利な条件とは何かな? 相手国を日本と想定してだけど」


「対象国を日本国としますと、まずは安全で安価なエネルギー供給でしょうか。簡単なところですと、核融合発電プラントでも作ってしまえばいいと思います。軽い元素の核融合ユニットの構造は簡単ですから、将来的には、日本国に移管できるかもしれません。次に日本国が抱える、問題地域の放射性物質の除去、いわゆる除染です。今ある原発の核廃棄物の処理を請け負ってもいいかもしれません」


「それで、対価は国交樹立。大使館の設立と付帯する土地の租借。それと日本円の獲得か。その円で日本から物を買うわけだからさらに喜ばれるな。それこそWIN・WIN。よし、それで行ってみようか」


「了解しました。関係部署に対し、現在休眠中のH3級強襲揚陸艦一隻の休眠解除および乗組員、支援・関連要員の休眠解除を艦長名で発令します。現在木星近傍にある、工作艦SII-001には必要と思われる機材の作成を開始させます。


 あと、日本国は艦長がいらっしゃる前のわれわれと同じように、防衛のみ許されている訳です。われわれもそうでしたが、その状態は非常に危ういものですので、艦長の祖国でもありますし早急にその状況を改善すれば喜ばれると思います」


「どうすればいい?」


「国交樹立後になりますが、日本国を対象とした片務的防衛義務宣言をしてはどうでしょう」


「片務的防衛義務宣言?」


「日本国が他国から攻撃された場合、アギラカナが攻撃されたとみなし攻撃国に対しわれわれだけで反撃するというものです。逆にアギラカナが他国に攻撃されたとしても日本国は一切関知しません。地球上で、われわれに攻撃を行う国があるとは思いませんが」


「それもよさそうだな。そうすれば日本にちょっかいを出す国はなくなるだろからな」


 アインたちは言えばなんでもすぐやってくれるけど、こんなんでいいのかな? 


 相手が日本だと国交樹立しても安心だしな。他の国はこの際どうでもいいや。国交樹立は日本だけに限定してしまおう。面倒な国は願い下げだからちょうどいい。


 そういえば、俺は今となっては、アギラカナ国民。日本は二重国籍を認めてないから俺も早急に国籍離脱手続きがいるよな。



[あとがき]

2020年6月3日、SFジャンル日間1位になりました。応援、フォロー、☆、感想等まことにありがとうございます。



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