第9話 るか☆るかエキス、ちゅ~にゅ~♡
「お帰りなさいませ、ご主人様」
深夜帯になってから家に帰ってくると、
やがて顔をあげて笑顔でこう言ってくる。
「ご飯でもお風呂でもベッドでも、する覚悟はできております」
「なんの話だよ?」
「や、やだっ! ご主人様ったら。そんなこと言わせないでください恥ずかしいっ」
深夜でも相変わらずのテンションなんだからすごいわ。
見ているこっちが疲れそうだよ。
「ご主人様、ご飯は召し上がりましたか?」
「いや、まだなんだ」
「それじゃあパパッと作りますね!」
「ごめんな? 面倒くさいよね? やっぱり食べてきた方が良かった?」
本当は
結果として面倒を押し付ける形になっちゃったな。
「気にしないでください!
そう言いながら瑠香がキッチンに立つ。
「お風呂にでも入っていてください。その間に作っちゃいますので!」
僕は昔から風呂が短い。
普通の人は湯船に湯を張ってゆっくり浸かったりするんだろうけれど、僕は風呂でゆっくりすることに慣れていなかった。
ものの十数分で風呂から出てくると、瑠香はまだ調理中だった。
ほのかに香る醤油の匂いが部屋にただよっている。
「美味そうだな」
瑠香の隣に立ち、フライパンの中身を確認する。
茹で上がったパスタとソースを混ぜ合わせているところらしい。
「すみません。あともう少しでできるので」
「気にしてないよ。和風系のパスタ?」
「はい。深夜なので重たい食べ物は翌日に響くと考えて、くどくないものをと思いまして。お醤油とみりんとお砂糖を使って即席の麺つゆをつくり、ソースにしてます」
瑠香は本当に料理に詳しい。
僕なんて麺つゆがそんな組み合わせで作れるなんて知らなかったくらいだ。
「そろそろ完成?」
食べるのが待ち遠しくてたずねると、
「そうですね。あとはご主人様がうしろから
「それ調理にまったく関係ないよね?」
「ありますよ。ご主人様に抱きしめられてキュンとした
「いや、たぶんこのままの方が美味いから今すぐ皿に盛りつけよう」
「そんなっ!? ご主人様のために料理に愛を込めるのはメイドの
そんなものを掟にしてるメイドなんて秋葉原系のところにしかいねえだろ。
ていうかなんでそんな情報を知ってるんだ?
疑問に思っていると、
「すみません。ご主人様が不在の間、テレビというものを見てしまいまして」
なるほど。
メイド喫茶的なものの特集でもやっていて、それを偶然目にしたのかもしれない。
「あとはご主人様のベッドの下の――――」
「オーケー。それ以上は言わなくていい」
「『催眠☆めいど~生意気な妹をこらしめる話~』に書いてありまして」
「言わなくていいって言ったよねっ!?」
なに暴露してるの?
ていうか中身を読んだの?
マジかよ?
なんで?
ホワイ?
「
「フッ。馬鹿め! そういうのは普段ぜったいにやってくれなさそうな生意気な女の子がやるから破壊力を持つんだ」
ちなみに催眠にかかってしまったせいで体の自由はきかないけれど、正常な意識はあって内心で恥ずかしがっているパターンの方が興奮す――――じゃないよ!
なんで僕は自分の性癖を暴露してるんだよ!
誘導尋問やめろよ!
「ともかく、お前じゃ役不足だ」
そう断言する。
その直後、瑠香がくちびるをアヒル口にして頬をむくれさせた。
目を潤ませて、上目遣いで見つめてくる。
「おにぃちゃん? ルカのおまじない、みたくないの?」
「
「心の声がダダ漏れですよ? ご主人様?」
「ぐぬぅあああああああああしまったっ!?」
ラスボスの断末魔みたいな悲鳴をあげる僕。
ち、違うんだ!
この僕が、瑠香がちょっと態度変えて接してきただけなのに、そんな馬鹿なっ!
「ご主人様がチョロいこと、
「覚えないでいいからねっ!?」
人の性癖を勝手に覗き見るし、おちょくってくるし、もてあそんでくるし、なんて最低な女なんだ!
「ねえねえおにいちゃん? あ~んしてあげるから、いっしょにごはんたべよ?」
「うるさい! だまれ! 僕を惑わすな!」
「いっしょにごはんたべたあとは、もちろんいっしょにねてくれるよね? ルカはまだひとりでねるのが怖いの」
「神よ! この僕に山のように動くことない堅い心を与えたまえ!」
などとふざけたやり取りをしている間に、フライパンの中のパスタは若干伸びてしまった。
伸びてしまっても、瑠香の作るパスタはすごく美味しかった。
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