第16話城塞都市防衛戦 その10

「これだから、異世界は怖い・・・」


 この場合、中途半端な前世の記憶が恨めしくなる、この世界で生きていく覚悟が、根付いてきたと思っていました。完全に、この世界の住人なら、あれを見て躊躇う事は無いでしょう。


「そう言えば、女の子モンスターって、色々いましたよね」


 前世で遊んだ記憶のある色々なゲーム。その中に、女の子の姿をしたモンスターがいました。捕まえて仲間にして使役するとか、商人に売り飛ばすとか、色々したりした記憶があります。


 捕まえるために体力を削り、失敗したら0にして次を探す。ゲームの中だから、何も思いませんでしたが、かなりの数を殺していたんですよね。鬼畜でした。


 500の反応を確認したら、そこにはダークエルフの集団がいました。全員武装しています。


 ダークエルフだけでなく、猫の様な魔物が混ざっています。魔力が大きいので、油断できない相手です。


 上空から観察すると、ダークエルフは全部で10人位しかいないことがわかりました。力場で確認すると、人影の大半が幻影です。色々と、混沌とした状態です。出来れば、戦いたくはありません。ダークエルフ、未成年にしか見えません。猫に似た生き物を殺すのも、出来れば避けたいです。


「人型だから、人間の味方とは限りませんよね・・・」


 全体的に、黒い波動と言うか、嫌な雰囲気を出しています。あれは、呪いに近いかもしれません。


「念のため、接触してみますか」


 盾の高度をさげます。こちらを確認したのか、弓を構える。幻影と思われる者から、矢が飛んでくる。


「問答無用ですか?」


 かなりの数の矢が、正確に向かってきます。強化をした私には、通用しません。それを見て、猫の魔物が動き出しました。物凄い速さで、こちらに向かってきます。


「さて、どうしましょう?」


 矢を防ぐために、強化の数を増やしています。この状態で、猫の魔物を叩いたら、簡単に殺してしまいます。


「見てますよね?」


 猫の魔物の攻撃をかわしながら、空に問いかけます。


「魔物の傷、治せますか?」


「それくらい、簡単」


 リリの、声だけ聞こえます。地下室から、こちらを見るくらい、彼女なら出来るでしょう。返事も出来るとは、流石です。


「なら、仕方ありません.手加減は苦手ですが、極力殺さないようにします」


 そう言って、相手に向かいます。気合をいれ、力加減を間違えないように、意識を切り替えます。


「って、何で?」


 折角気合を入れたのに、攻撃が止まりました。猫の魔物は地に伏せています。ダークエルフは、幻影が消えて10人しかいません。


「マスター、今の声は、マスターですよね?」


 その中の1人が、大声で叫びます。


「私です、傾国の狐です。マスター!」


 その子は、そう言って泣き叫びます。傾国の狐と言うと、九尾の狐でしょうか?


「人間、少し目を瞑れ」


「私のことですか?」


「そうだ。マスターの知り合いなのか?」


 半分なきながら、ダークエルフの少女が話しかけてきます。


「マスターとは?」


「人間が、殺戮の魔女と呼んでいたお方だ」


「君は?」


「マスターのしもべ、傾国の狐」


「それが名前なの?」


「私の名前を、人間が知る必要は無い」


 確かに、名前には色々と問題があるから仕方ない。


「目を瞑れとは?」


「えっと、元の姿に戻りたいけど、見られるとその・・・恥ずかしい」


 もじもじと、照れる姿は中々可愛い感じがする。


「目と瞑るだけでは、不安だから、お前たち、少しの間こやつを・・・」


 そこまで言いかけて、動きが止まる。振り向くと、そこにはリリがいて、猫の魔物を撫でていた。


「精霊猫の末裔ですか?」


「にゃい、我等精霊猫、魔女様が転生したと知り、駆けつけました」


「ちょっと、抜け駆けしないで」


「にゃう、早い者勝ちにゃ」


 普通に猫が喋るのは、さすが異世界なんだろう。


「うぅ、マスター!」


 傾国の狐と名乗ったダークエルフが、変身する。体が小さくなり、服がずり落ちる。他のダークエルフも、小さくなって消えていく。そこから、何かが飛び出して、一つになる。


「尻尾だったのか・・・」


 予想通り、九尾の狐でした。尻尾を使った分身の術と言う感じです。


「マスターぁぁぁ」


 小さな尻尾の生えた女の子が、リリに抱きついて泣いています。


「知り合い?」


「昔の仲間です」


「知り合いなら、早く止めて欲しかった。下手したら、どちらかが死んでいたぞ」


「いきなり、攻撃してきたから、滅んでも良いのかなって・・・」


 悲しそうに、リリは呟く。


「しょんにゃ」


 猫達が驚く。傾国も、悲しそうになる。


「私は,もう殺しはしたくないの。かつての仲間で、この子は封印された存在。ギフトもとても恐ろしい」


「傾国は、ギフトの名前?」


「そう。人を惑わし、堕落させるといわれるギフト」


「それは、冤罪です。私、何もしていないし、まだえっと、その、ですし、確かに、国を2つほど滅ぼしましたけど、あれは相手が悪いです」


「マスターが、滅びろと望むなら、それでも良いです。こうやって、頭を撫でてもらえて幸せです。あの時は、お別れを言う時間がありませんでしたから」


 ぐりぐりと、頭を押し付ける。ゆらゆらと揺れる尻尾が、素晴らしい。もふリストの気持ちが、今ではわかる気がする、


「何故、攻撃したの?」


 リリは、やさしく問いかける。


「だって、もうすぐマスターに会えると思ったのに、あんなに恐ろしい者がきて、全力で攻めないと、殺されるって、マスターは、怖くないの?」


「とても、恐ろしいと思っているわ。だから、敵にならない事を誓ったの」


「だったら、私も敵になりません。傾国の狐と呼ばれた災害です。名前はコンです。どうか、先程の事を許してください。私は、マスターと一緒に過ごせるなら、それだけが望みです」


 そう言って、足元にしがみついて来る。名前がコンと言うのは、誰が名付けたのでしょうか?リリの方を見ると、視線を逸らしました。名付け親は、前世の彼女でしょう。災害とまで言われた存在に、恐ろしいと言われる私は、いったい何なんでしょう?


 私自身の恐ろしさは、ある程度把握しているつもりでしたが、ここに来て少し恐ろしくなりました。


 コンと、精霊猫の末裔たちは、とりあえず地下室へ行くことになりました。ちなみに、精霊猫とは魔力を持った猫で、遙か昔は一大帝国を築いていたそうです。その秘宝をめぐり、世界が争い、文明が滅んだと記録にあります。


 城塞都市付近の、一番恐ろしい集団は、味方になりました。リリの望みが、殺しをしないということなので、コン達もそれに従うそうです。あの場所の守りに関して、かなり強化された事になります。


 こちらの問題が終わったので、次は王都に向かいます。ガイルや、カーシャの事も気になります。少し、急ぐ事にしましょう。


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