第12話城塞都市防衛戦 その6

 王都のすぐ側に、魔物の大群が集結していた。その魔物は、知性ある魔物に率いられた軍団だった。

 魔物の名前はアースドラゴンのツチミカドと言う。長い年月を生きていた。ギール王国のある最大の迷宮の底で、のんびりと過ごしていた大人しい龍だった。

 そこに、第3王子サルドがやってきてた。迷宮の攻略は、この世界のシステムなので、ツチミカドはそれを眺めていた。サルドは、強力魔魔法で、階層ごと焼き払うと言う力技で、自分だけでなく付き添うの人のレベルを強制的に上げるレべリングをしていた。

 数々の財宝を手に入れて、迷宮のそこまでたどり着いたが、ツチミカドに敗北した。

 魔法無効と言うギフトを持つツチミカドにたいして、魔法特化のサルドは相性が悪かった。その部下も、魔法使いが多かった。ギフトが優れた人が、国を支配するべきと言う考えの集団で、国内の主流になりつつある集団だった。

 通常、最下層のボスからは逃げられない。サルド達は、1人の能力を限界まで上げるという薬を所持していた。それを、仲間に飲ませて、強制的に空間転移の魔法を発動。1人を置き去りにして逃亡する事に成功した。

 置き去りにされた男は、死ぬ間際にサルドを呪った。最大まで上昇した能力は、ツチミカドに呪いをかけた。ツチミカドだけではない。迷宮にいた魔物全てが、サルドとその仲間を殺すべく、移動を開始した。

 進路上の街を薙ぎ払い、魔物を配下に収めながら、巨大な軍団となって王都まで来たのだった。


「愚かな魔物がやって来たぞ・・・」

 城の城壁から、サルドは見下ろしていた。その後ろには、集まった諸侯が整列している。魔物討伐に向かった第1王子の戦死は既に伝わっていた。第2王子は、戦い向きではない。

 自分がまいた種とは知らず、サルドはご機嫌だった。得意の魔法で、この軍勢を焼き払えば、王への道が開ける。過去の出来事を再現して、勝利を掴む。現時点の報告で、幾つかの城塞都市が壊滅している。

 被害の無い都市も、いくつかあった。魔物に怯え、閉じこもっていると言う。軍全体として、都市の防衛を命じているので、被害が無いというのは、ほめられる事だろう。

 ただ、今回の目的は、各地の軍が戦い、数を減らして王都の決戦を有利にすると言う目的もあった。

 状態を見れば、過去の英雄の偉業の再現だと、この国の民なら理解して行動すべきなのだ。

 もっとも、サルド自身の力と、命がけの修行を共にした魔法兵団の力があれば、この程度の魔物の群など、一撃で滅ぼす事ができるだろう。幸い、空を飛ぶ魔物が今回は参加していない。

 魔物の群のリーダーによって、集まる魔物は変化する。地を這うしか脳の無い下等な魔物など、恐れる事は無い。

「全軍、攻撃用意!」

 サルドは、色々とミスを犯している。過去の偉業は、偶然の結果で各都市の守備隊は、充分な戦力があった状態で敗北している。

 今回、戦力や物資は、王都に集められていた。いち早く危機に気づいた軍部は、戦力を集める事にしたのだった。都市の有力者は、それを見て、安全な場所を求めて王都に逃げただけだった。過去の出来事では、充分な戦力があったのに、城塞都市は壊滅的な被害を受けていたからだ。

 自身が、ギフトで強力な魔力と魔法を手にしたサルドは、軍部と折り合いが悪かった。なので、情報面で大事な情報を手に入れていなかった。あの魔物の群のボスが、何だったのか、彼は知らない。

 軍部も、ボスがどれなのか不明だが、巨大なアースドラゴンの存在は確認していた。アースドラゴン対策に、巨大な落とし穴を用意している。軍の上のほうは、サルドの作戦は失敗の可能性が高いとして、裏で準備を進めていた。国王は、老いて余命が無い。軍部としては、第一皇女ロセロアを次期国王と期待している。統一の取れていない集団なので、破滅はすぐ側にあった。

「我の偉大な魔法の劫火で、この世から消し去るがよい!」

 それを合図に、無数の魔法が、魔物達を襲う。それが、サルドの最後に見た光景になる。

 発動した魔法は、ツチミカドの新しいスキル、魔法反射によって全て跳ね返った。

 呪いによって、ギフトが強化された結果だった。偉大な魔法の劫火は、城壁を破壊して、王都の街並みを破壊した。集まっていた諸侯は消し飛び、自慢の魔法兵団は全滅した。かろうじて、後方に控えていた軍部の騎兵隊は生きのびただ、無傷ではない。

 城塞都市から集められた戦力は、半数以上が、消し飛んでしまった。後方に控えられていた、初等部の学生たちは、軽症だったが、これから命がけで魔物と戦わなければならない。

 各地から集まっていた傭兵団も、後方に配置されていたので、被害は少なかった。ただ、状況を見て、いち早く避難を決めた貴族に雇われ、半数が逃げ出してしまう。

 城壁は壊された。呪いの目的は果たされたので、ツチミカドは迷宮に戻ろうとした。呪いによって底上げされた能力は反動で低下している。ここで戦うのは、危険だった。

 それ以外の魔物は、えさである人間の気配を感じて、喜びながら王都へ侵攻していく。

 地獄の、始まりだった。

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