第8話城塞都市防衛戦 その2

「切り裂け、スラッシュブーメラン!」

 私がそう念じると、音も立てず高速で回転するブーメランが飛ぶ。

 直立するトカゲ、リザードマンの首を、あっけなく切り落とす。

「そい、そい、そいっと!」

 同じように、ブーメランを飛ばして、次々と首を落とす。敵を倒した時点で、念が切れて下に落ちる。

 それを回収しながら、攻撃を繰り返す。

「今のレベルを聞いても良いか?」

「スキルの?」

「教えてもらえるなら、出来るだけ・・・」

「ここを教えてくれたお礼に、出来るだけ教えるよ」

 今いるのは、城塞都市の奥にある迷宮だった。平均レベル50の、この都市で一番難易度の高い迷宮。

 一般人は立ち入り出来な場所だが、傭兵の関係者がいたので、その伝で入る事ができた。


 レベル 27

 種族 人間

 体力 D⇒C

 魔力 F

 基礎 C

 幸運 F

 ギフト 念導 レベル3

 スキル 移動 レベル3 命令 レベル 2 強化 レベル2


 口頭で、現状を説明する。そう言いながらも、周回しているリザードマンを倒している。

「魔力がFなのか?」

「残念ながら・・・。レベルが上がったのに、これだけは強くなった気がしません」

「それでよく、攻撃が続くものだ」

「私の場合、ギフトで使う魔力の消費は少ないですから・・・」

「それにしても、異常だ」

「そうですか?」

「一度に、リザードマンを50以上倒すなんて、団員では無理だ」

「ガイルなら出来るのでは?」

「訂正する、俺と団長以外の団員には無理だ」

「やっぱり、団長さんは強いのですか?」

「Aランクの能力者だ」

「Aランクって、実在しているんですね・・・」

 細かい区分けが出来てないランクなので、同じランクでも強さに幅はある、その中でも、Aランクは別格だった。

「少し休め、その間は俺がやる」

「お願いします」

「そんな物を見せられて、大人しくしている事は俺には出来ない」

 そう言いながら、ガイルが飛び出す。

「ッシ!」

 素早く接近して、殴る。その動きは、見覚えがある。ボクサーだ。

 素早いフットワークで、気配を消しながら相手の死角に回り込む。そして、ジャブ。

 その一撃で、リザートマンは頭部を破壊され絶命する、時々、ワンツーを敵に撃ちこむ。

 これで、一つの疑念が解けた。

「ボクサーですか・・・」

 ギフトの力で、身体能力を強化された人間の攻撃は、凶悪だった。その上、ある程度作り上げられた戦闘スタイル。

 仮に、身体能力の強化具合が私と同じなら、このガイルはもっと強いはずだ。目の前の戦闘は、かろうじて目で追える速度だった。一撃の攻撃力は、凄いけど、念導の盾を破壊できる感じはしない。現状、城塞都市にいる脅威は、このガイルとカーシャ、そしてリリだろう。

 本気のカーシャは、正直化け物だった。念導で包んだ盾を破壊された事もある。

「大人顔負けだな」

「だから、俺も王都に呼ばれた」

「お疲れ様」

「あぁ、もう一つ聞いても良いか?」

「何を?」

「ボクサーを知っているのか?」

「さっきの呟きが聞こえたのか?」

「お前は、俺に向かってボクサーといった」

「言ったよ」

「お前は、転生者か?」

「転生って、頻繁にあるのか?」

「この世界では、時々あるらしい。俺もそうだ」

「転生と言えるほど、前世の知識は無い。かろうじて、前世の知識が残っている程度かな?」

「どこの世界だ?」

「え?」

「どこの世界の記憶だ?」

「どこのって、日本という国だけど?」

「年代は?」

「産まれたのは・・・昭和と言う時代だったはずだ。死んだ時期は覚えていない」

「その世界に、大中華連合帝国は存在していたか?」

「そんな国は、聞いたことが無い」

「そうか・・・」

「もしかして、ガイルがいた国なのか?」

「そうだ。そこの将軍の一族に連なる物だった」

「ここに異世界があるなら、色々な世界からの転生者がいてもおかしくないのか・・・」

「団長が、転生者で、そう言う人間を集めている。お前も資格がある、俺達の団に来ないか?」

「現状、辞めておく」

「どうして?」

「王都に行くんだろ?」

「そうだ」

「多分、死ぬぞ」

「何故?」

「リリが、そう予言した」

「あのこが?当たるのか?」

「そんな気がする」

「・・・」

「大体、この作戦無駄が多すぎる。過去に成功した作戦を、何度も繰り返すなんて、どこかが狂った時、どうするつもりなんだ?」

「そうか?敵を本拠地に引き込んで、疲労がたまった所を攻撃するのは、良い考えだと思うが?」

「途中の犠牲を軽信して?残った舞台が、命がけで抵抗する?だったら一から戦力を集めるべきだ」

「時間が間に合わないのでは?}

「そう見えるか?」

 現状、どこかに集まって準備する事は出来る。王都までの距離を考えると、この城塞都市の民を王都に送って、戦力を集める事も出来たはずだ。

「10万の魔物だ、命の選択を考えるのは、当たり前だろ?」

 ガイルの考えは、大国の貴族の考えだろう。もっとも、実際そんなのを見た事はない。前世で読んだ小説の悪役の考えに近い。

「大規模な魔法で、一掃出来ないのか?」

「王都にいる第3王子が稀代の魔法の使い手で、大規模魔法を使えると聞いている。それが今回の主力だ」

「その力を、見せ付けると言う事か・・・」

 その為に、どれだけの人が犠牲になるのだろう?今ひとつ、この国の命の重さに関しての感覚が掴めない。

「生き残る事ができたなら、是非とも我等の傭兵団に来て欲しい」

 別れ際、ガイルがそう言う。

「考えておく」

 そう言って、別れる。これが最後の挨拶になるような気がする。

 その後も、1人で色々と試してみる。10万の魔物を全滅させるのは無理でも、何とか生き残れるだけの力は得られた気がする。

 ここに魔物の群れが来るまであとわずか。生き残るために、足掻くだけだ。

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