第7話城塞都市防衛戦 その1

 グリーンが死んで、一月が過ぎた。 結局、1人の子供が死んだだけで、世の中は何も変わらない。

 学校は、2組の担任が死んだのは事故と発表した。この世界で、それなりの規模の宗教、ギフトを崇めるギフエナ教を敵にしたくは無いのだろう。

 冒険者ギルドも、ある時期から文句が消えた。冒険者の持っていたアイテムは、私とガイルとで山分けした。クラスメイトは、全員気を失っていたので、あのときの真相を知っているのは、私とガイルだけです。

 暗殺とかあるかもと、怯えていましたが、今の所ありません。

「魔物の氾濫が起きている」

「スタンピートという奴ですか?」

「そうだ」

 放課後、ガイルと情報交換をしている。交換といっても、ガイルの育った傭兵団からの情報を、聞くだけです。

「王都に向かって、10万を超える魔物が進行中だ」

「そう言うのは、頻繁にあるのですか?」

「10年に一度はあると聞く」

「大丈夫でしょうか?」

「かなりの兵力が集められている。今までも何とかなっている」

「ここは、安全でしょうか?」

「今回の反乱の範囲には無い」

「よかったです・・・。と言いたいですが、何か懸念がるのですよね?」

 こうやって、話を持ってくるという事は、何かあるのでしょう。

「ここの領主が、兵力を王都に派遣する」

「召集されれば、仕方ないのでは?」

「この学校から、1組と2組の生徒も招集される」

「戦力になるのでしょうか?」

「この街の、有力貴族が、冒険者を大量に雇っている」

「・・・」

「大手商人が、物資をかき集めている」

「逃げ出す準備ですか?」

「おそらく、そうだと、団長は推測している」

「ガイルは、どうするのですか?」

「団長の命令には逆らえない・・・」

「都市を放棄しないと駄目なほど、敵は強いのですか?」

「放棄しても、また取り戻すつもりだろう」

「私達は、捨て駒と言うことですか?」

「各地の守備隊が、命がけで戦って、少しでも戦力を削る。その後で、王都から一斉に攻撃する作戦らしい」

「そんな作戦で、大丈夫なのですか?」

「過去、この手の災害のたびに取られている作戦だ」

「魔法や、ギフトで何とかならない物ですか?」

「強力なギフと持ちは、現在この王国にはいない。魔法に関しても、Bランクの魔力を持った宮廷魔術師の部隊は王都だから、その師団の準備する時間を稼ぐらしい」

「ガイルは、色々と詳しいですね」

「お前も、俺みたいな訓練をしたわけではないのに、物分りよすぎるぞ」

「私の場合は、育った環境のおかげですよ」

「それだけとは、思えないけどな」

「それより、時間はまだありますか?」

「魔物の集団が来るまで1週間と言う予測だ」

「その間に、逃げる事は?」

「外に出て、生きのびられるなら、それでも良いと思う」

「厳しいですか?」

「既に、辺境の村や町が何個か滅んでいる。運よく生きのびた人もいると思うけど、厳しいぞ」

「それでも、過去の事例で生きのびた人は結構いるだよね?」

「都市の地下に、避難所はある。女子供は避難出来るけど、お前は無理だぞ」

「このドサクサに紛れて、殺されるかのせいもあるか・・・」

「どうする?」

「この都市、もしくは周辺に、迷宮はありますか?」

「この前の実習の迷宮では駄目か?」

「あそこの敵は、レベルが低すぎて、今の私では意味がありません」

「低すぎるって、あそこの最下層まで行けば、レベル30の魔物がいるはずだが?」

「この一月で、何度か潜りましたから」

「1人で?」

「パーティメンバーはいませんからね。リリは、あれから塞ぎこんでいます」

「それは、仕方ない。どちらと言えば、お前がおかしい」

「それは、ある程度自覚しています。多分、私はおかしいのでしょうね・・・」

 前世の記憶を生かして、この世界にない物を作ってみた。銃を作るつもりは無い。

 作ったのは回転する刃。最初は、冒険者の遺品のナイフを、移動で浮かべて、命令で跳ばす練習をしていた。

 これは、命中率が悪いので、現時点で封印した。

 次に、迷宮でゴブリンを倒した方法、トラップワイヤーを使ってみた。

 相手の勢いがあれば、有効な攻撃だけど、そうでなければ、使いどころがない。

 念導で移動している間は、強度を維持できるのはわかっている。威力を上げるには速度が無い。

 頑丈なナイフでも、速度が出ないから鉄に弾かれる。生き物なら、ゆっくりでも刺すことができた。

 速度の問題は、命令で解決できた。浮かべた物に、回れと命令した。

 最初はゆっくりしか回転しなかった。魔法はイメージと言う、色々な先人の言葉に従い、命令する時に高速回転を意識した。そうすると、若干早くなった。やけになって、まわれまわれと、連続で命令してみた。

 その結果、回転速度が飛躍的に高まった。

 10個の物を、同時に浮かべて、一つずつ回してみる。次のは前のよりも速く、それを繰り返す。

 10個目には、かなり早くなっていた。その最後のを残して、9個浮かべる。

 それを繰り返す。ぎゅるるると、危険な感じの音がするまで、回転を早めた。

 それを意識すると、次からはその速度で回転する。

 街の中を探索して、材料を集める。クラスメイトに、鍛冶系のギフトを持った人はいない。

 どうしようか悩んでいると、リリが面白い物をくれた。小さな鉄のブーメラン。実際に、投擲できる品物ではない。

 何でも、迷宮で手に入れたらしい。ここ数日、どこにも言っていない彼女が、何故迷宮から武器を手に入れられたかは、謎だ。迷宮からと言うのは、嘘だろう。

 それでも、面白い物が手に入った。数が無いかと聞いてみると、同じ物がもう一つあるといってくれた。

 出来れば後8個欲しいとお願いしたら、微妙な顔をしたけど、翌日運よく迷宮で手に入れたといって、全部で8個持ってきてくれた。

 あの子は、何か隠している。だけど、それを聞く必要は無い。

「あの迷宮よりも、強い魔物がいる場所を教えて欲しい」

「良いけど、その代わり俺も一緒に行っても良いか?」

「何故?」

「他人のギフトを調べるのはマナー違反なのは承知している。だが、生き残るために手札は少しでも欲しい」

「そう言うことなら、良いでしょう。私も、同じ気持ちです」

 ガイルのギフトで、何が出来るのかと言うのは、出来れば知っておきたい。

 時間が少ないので、今日はこのまま迷宮に向かうのだった。

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