第5話念導使い その5
「今のも、お前のスキルか?」
「そうです、ギリギリ間に合いました・・・」
ゴブリンを倒したことで、レベルが上がった。運よく、ギフトとスキルのレベルの上昇。
新しく覚えたスキルは命令。移動のスキルを発動している物に、一つ動作を追加できるという物だった。
ただ、これに関しては検証できていないので、まだ発動していない。
今回私を救ってくれたのは、移動のスキルがレベル2になった事。
10キロ以下の物を10個まで、私を中心に10メートル以内移動させられるに変化した。
レベル2になれば、2メートルと2キロだと思っていたので、これは予想外。この段階で十分チートだと思う。移動速度は、若干上昇しているが、戦闘に使えるほどではない。今回は、背後からこっそりだったので、上手くいった。こんなギリギリの事は、何度もしたくない。この世界で生き残るには、まだまだ私には足りない物が多い。
「大丈夫ですか?」
上の階には、同級生が倒れていました。一目で死んでいるとわかる子もいれば、かろうじて生きている子もいます。
「グリーンと、リリは?」
同級生の事は、悲しいけどまずはその二人の安否です。
「あいつら・・・」
その横で、ガイルが物凄く怖い顔をしています。
「リリ!」
倒れているリリを発見しました。不思議な事に、女の子たちは気を失っているだけです。
「もしかして・・・」
後で、売るつもりだったのかもしれません。あの短時間で、これだけの事を準備しているとなると、ある程度計画的な犯行だったのでしょうか?
「グリーン?」
グリーンも無事でした。かろうじてですが、息があります。
「スティック、ぶ、ぶじかい?」
「喋らなくてもいい」
「ぼくの、かいふ、く、つかえたら、たすけられ、たか、な?」
側には、既に死んでいるクラスメイトがいる。変なところで、フラグを立てた因果だろうか?
やな奴だったけど、こんな終わり方をして良い連中ではない。
「か、い・・・」
グリーンはスキルを発動しようとしているけど、今までと同じで、上手くできない。
「無理をしてはいけません」
「で、でも、ぼくには、ちからが、あるはずなのに・・・」
スキルが発動しないのは、理由があるはず。グリーンの話を、聞いて置けばよかった。いろいろと、後になって後悔することが多すぎる。
「みんなを、たすけた、いのに・・・」
「だったら、全員を同時に回復できないか?」
「どう・・・じ?」
「人が駄目なら、空間でも良い。この周辺を回復できないか?」
「あ・・・、あ・・・」
力が集まる。
「回復!」
その瞬間、光が溢れた。周辺の子供の傷が、あっという間に塞がっていく。
グリーンの回復は、個人ではなく、空間に作用するエリアヒールだった。
「よかった」
にっこりと、最後に笑う。
「馬鹿野郎!」
何が、よかっただ。
私は、叫ぶ。何がよかっただ。明らかに、回復の度合いが強い。正直、死んだと思っていた子まで、回復している。頭と首が離れた上体から、回復だけで生き返るはずが無い。
最後の力を振り絞ったから、起こした奇跡だろう。この手の話は、各地である。ギフトが、神の恩恵といわれる原因にもなっている。
この出来事も、そう言う話になるかもしれない。自分の命と引き換えに、クラスメイトを救った子供。
「お前が死んだら、意味無いだろうが!」
冷たくなってしまった体を、抱きしめる。
「人を呼んで来る。お前はここで少し休め」
「ありがとう」
ガイルの提案に従う。周りの子供は、意識を失っている。急激に回復した影響だろう。
「っち、一番の目玉を失うとは、所詮冒険者か・・・」
少ししてやって来たのは、初等学校の教師だった。確か、2組の担任だ。
「貴方が、命令したのですか?」
「回復のギフトを持った人間は、教会の為に奉げる必要がある」
そう言って、ギフエナ教のシンボルを取り出す。
「久しぶりの、任務だったのに、邪魔をして・・・」
「任務?」
「回復ギフトを集める任務だよ。教皇様からの評価が下がってしまう。攻めての腹いせに、貴様を嬲り殺すとしよう」
そう言って、担任はこちらに寄ってくる。
「念導!」
「お前のギフトは、確認済だ。この距離なら、何も出来まい」
そう言って、手前2メートルの場所で止まる。
「成長している可能性があるからな。俺は、用心深い男なんだ」
そう言いながら、魔法の準備をしている。
「加速しろ!」
足元にあった小石を、移動で浮かべる。その後で、命令する。
だが、これは上手く行かなかった。方向が指定できない。移動した方向の延長戦に行くと思ったけど、男に当たらなかった。
「残念でした」
いやらしい笑顔で、こちらを見る。
「一撃で、死ぬんじゃないぞ、炎の矢!」
魔力を調整して、弱めの魔法が飛んでくる。これなら、死ぬ事は無いだろう。だから、試してみる。
「止まれ!」
矢に向かって、念導を発動。動作したのを確認して命令してみた。炎の矢は、そこで止まる。
「念導!」
命令は一つだけなので、止まった炎を、移動で押し返す。
「な、なんだこれは?」
予想外の事が起きて、教師は動きを止めてしまう。
「殺すなよ!」
「解っている」
後ろに回りこんでいた、ガイルが教師を殴り飛ばす。誰かいる気がすると、彼が言うので一芝居をうった結果だ。隠れて、ガイルが側にいた。
「仕方ありませんね、はぁ、失敗ですよ」
教師が呟く。
「神に、栄光を・・・」
「しまった」
よく見ると、先程取り出したシンボルを胸に突き刺している。刺さった周辺が、変な色になっている。おそらく、毒が仕込んであったのだろう。
「ここまでするのか・・・」
こうして、この出来事は終わりとなった。
教師が犯罪行為に関わったという事で、学校には大きな衝撃が走った。
回復ギフトに関しては、過去に色々と問題があった事を、大人は把握していたが、ギフトを使いこなしていない子供と言う事で、甘く見ていたらしい。
冒険ギルドは、犯罪に加担したのは冒険者で、依頼を受けただけだから関係ないと言っている。むしろ、被害者だという立場だった。有望なCランクの冒険者を5人も失った。装備品に関しては、こちらが被害者なので、返還するようにとまで言っていた。
それに関しては、ガイルの所属する傭兵団が間に入ってくれて、落ち着いた。
所持していたものに関しては、ガイルと山分け。冒険者の個人的な遺産は、冒険ギルドが没収と言う事になった。家族もいたらしいけど、犯罪行為に加担したという理由で、没収らしい。酷い話だと思う。
ただ、こちらとしても、その家族に手を差し出すつもりは無い。
グリーンは、家族がいなかった。共同墓地に埋葬され、小さな名前が、墓碑に刻まれた。
もっと、上手くやれば、もっと別の道があったかもしれない。
悔やんでも、悔やみきれない。俺が、エリアヒールの可能性を示唆しなければ、グリーンは生きのびれたかもしれない。
教師に捕まってしまった可能性もあるけど、生きていたら、先がある。奪われたら、奪い返せるかもしれない。
「どこかで、転生したら、もう一度あえるかな・・・」
私みたいに、中途半端な記憶を持って、転生するかもしれません。
「さようならです」
小さく手を合わせ、そこから去ります。
もっと力が欲しい。
それは、切実な願いです。
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