第3話念導使い その3

「そのまま動かすだけが、限界か・・・」

 目の前に浮かぶ布を見ながら、考えます。

 空中で形を変えられれば、目くらましか何かに使えると思ったのですが、移動させた時から、形を変えるというのは出来ませんでした。

「盾としてなら、背後に展開て使えそうですが、速度がネックですね・・・」

 攻撃を見てから、移動するとなると、速度が無いので間に合わない。少し大きな盾だと、重量がオーバーして動かせないので、木の簡単な盾が限度です。

「これで、どれくらいの攻撃が防げるか、不安しかない」

 飛んできた矢を、ギリギリ防げるかどうかです。勢いを殺す事は出来そうですが、それだけでしょう。

 現在は、校庭の片隅で自主訓練中です。他にも、色々と訓練している人がいます。

「少し、よろしいでしょうか?」

 近くで、走り込みをしていた人に声をかける。

「何?」

「この石を、こちらに向かって投げてもらえますか?」

 小さな石を手渡す。小柄な少年だと思ったら、女性でした。この年代なら、性別を間違えても問題ないでしょう。

「どれくらいの速さで?」

「最初は、軽めでお願いします」

「いいよ」

 少し距離をとります。

「それっ!」

 軽く投げられた石は、それなりの速さで飛んできます。

「これくらいは、防げるのか・・・」

 盾に当たった石は、そこで止められ、落下します。盾に当たった衝撃を感じないと言うのは、利点でしょう。

「もう一度行くよ!」

 その子は、もう一度石を投げます。

「とりゃぁ!」

「ちょっ!」

 いきなりの全力投球。しかも、かなりの速度が出ています。

「あれ?」

 それなのに、盾はびくともしません。私が念じた場所に浮かんでいるだけで、石はそのまま落下します。

「傷ひとつ無い?」

 子供が投げたとは言え、それなりの速度がありました。というか、何か強めのギフトをこの子は持っています。

「凄いね、防御力を上げるギフトなの?」

 わくわくと、期待を込めた子犬のように、こちらに走り寄ってきます。

「僕は、カーシャ。ギフトは身体能力だよ」

 これは、良く聞くギフトです。怪力は、力が増す。身体能力は、全体的な基礎の力が上昇すると言うギフトです。前衛向きで、色々な場所で重宝されると聞いています。

「私は、スティックです」

「謎ギフトの?」

「はい」

 念導力と言う、聞いた事のないギフトを持っている私は、謎ギフトの持ち主と言われています。

「そのギフトの力?」

 今起きた現象に関して、彼女は考えているみたいです。

「色々と、検証中です」

「じゃぁ、そのまま動かないでね」

 そう言って、彼女は距離をとります。

「とぅ!」

 走りこんでからの、とび蹴り。彼女の足は、盾にあたって動きを止めます。盾は、ピクリともしません。

「てい、とう、やー」

 反動で距離をとり、そこから連続で蹴りました。それでも、盾は動きません。

「凄い寝これ、びくともしない!」

「そ、そうだね・・・」

 盾との距離は、結構近い。全力で、とび蹴りや連続蹴りをされると、こちらは少し怖かった。盾の防御力に、それほど自身は無い。なので、無事な事に安心した。

「念じた時点の形を、維持しているのか・・・」

 可能性として、念じた物を、特殊な何かが包んでいて、その形を維持している気がする。

「これだと、どうなるんだ?」

 盾ではなく、もっと軽くてやわらかい物だったらどうなるのだろう。

「もう一つ、お願いしても良い?」

「いいよ」

 実験用の布を、広げてから念じて動かす。

「これを、叩いてみて」

「はいな」

 風を切る音が聞こえそうな、物凄い勢いで、布が殴られた。

「むぅ、なんか気持ち悪い」

 布は、ピクリともしない。広げた状態で、その場所を維持している。

「こうなったら、こうしてくれる!」

 全力で体当たり。彼女は弾かれて、転んでしまう。

「だ、大丈夫?」

「大丈夫だけど、これ何なの?」

「念動力で、動かしているんだよ」

「凄いね、防御に関しては、完璧じゃない?」

「これ、動かす速度が遅いから、防御向きじゃないんだよ」

「それは、もったいないね・・・」

「途中で形を変えられないから、小さい布を広げて防御と言うのも、無理なんだよね」

「もっと、もったいない」

「だから、色々と実験中なんだ。ここまで、防御に使えるなら、使い方次第で色々と出来るかもしれない」

「そうだね。面白そうだから、僕も協力しても良い?」

「いいけど、君は1組だよね?」

「そうだけど?」

「5組に人間と一緒にて、問題ないかな?」

 1組と2組には、他の組を見下す子が大勢いいる。

「そう言えば、面倒かな・・・」

「気持ちだけ、もらっておくよ」

「えっ!!!!」

 私の言葉に、彼女は驚く。

「えーと、スティック君は、人間だったよね?」

「そうだけど?」

「気をつけてよ、私達精霊族は、気持ちだけもらうって、求婚の言葉だよ・・・」

 彼女は、顔を真っ赤にして、もじもじとしている。

「そ、そうなの?」

「知らない人が多いから、注意しなさいいて、お母様から聞いています。昔、お父様がやらかしたとか聞いています」

「そ、それはすまない」

「私は、精霊族とのハーフなので、見分けつかないかもしれませんが、以後注してください」

「解りました」

 思わず、直立不動の姿勢で返事をしてしまいました。

 エルフとか、亜人の中に、精霊族という種族がいます。人に近い容姿ですが、額に宝玉があるのが特徴の、特殊な種族です。良く見ると、髪に隠れるように、彼女の宝玉があります。

「じろじろ、みないで」

 それを確認していたら、にらまれました。

「私の宝玉は、みんなと色が少し違うから、すきじゃない」

 綺麗な、赤い宝玉ですが、血の色みたいと同族に言われてから、隠していると教えてくれました。

 なんだかんだで、色々と話すくらいは仲良くなってしまい、これ以降、訓練をこっそりとする仲間になりました。




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