第二話 帰宅


 結局、家に着いたのは八時近くなってしまった。


 渋滞は無かったものの、国道を使わないルートを走ったので、信号機に何度も捕まってしまった。それでも駅から家まで歩くことを考えると、速かったのかもしれない。


 家の前で稲瀬家のどちらかと鉢合わせになっても困るので、近くのコンビニで下ろしてもらった。ゲイザーに礼を言うと、また明後日と言って別れた。


 さつきちゃんへのプレゼントは、ゲイザーに持ってて貰うことにした。


 ちらりとコンビニの方へ目をやると、オレ以外にも学生の客が何人かいた。コンビニに用は無いので、真っ直ぐ家へと向かう。


 オレが言うのも何だが、何でこんな時間に制服でコンビニなのだろう。そんなにこの辺りは特殊な家庭が多いのか。そこまで考えて、あることに気づく。そうか、塾か。たしかに駅前にはいくつか、学習塾があった気がした。


 やはり大学を受験するに当たって、塾のことも考えなきゃならないのだろうか。雨梨部長は塾に行ってはいないようだけど、あの人と我々じゃ根本的に頭の作りが違うからな。今度会ったとき、ゲイザーやジャッカスはどうするのか聞いてみるか。


 考え事をしながらもあって、すぐに家の前に着いてしまった。


 開けると、また稲瀬みのりが仁王立ちでいるのだろう。錠前に鍵を差し込むが、当たり前だが解錠されていた。ドアを開いて、小声をただいまと言うと、意外な人物が玄関に立っていた。


「遅いぞ、ミナユキ」


 なんと仁王立ちしていたのは義妹ではなく、親父だった。意外な人物とは思ったが、我が家主をそう呼称してしまう状況がウチのおかしい所だ。


「むしろ、早いな親父」


 オレはローファーを脱いで、下駄箱に入れる。


「明日は大イベントだからな」


 むしろこの大型連休の為に、仕事をかなり前倒しで進めていたという。だから、ここ数週間、帰りが遅かったのか。


 何が大イベントだ。たかだか墓参りの為に大げさなと思ったが、自分の母親である以上オレも明日の事は軽んじてはいない。


 今までは五月二日が平日である時が多かったので、半休を貰った親父と放課後に行っていた。だけど、明日は土曜日。上手くいけば午前中には終わらすことが出来るだろう。


「飯の支度が出来ている」と促され、キッチンに行くと、既にテーブルに料理が用意されていた。でかい桶にご飯が敷き詰められ、色とりどりの海鮮ネタ。今日はちらし寿司か。


「遅いです」と椅子に座った稲瀬みのりがこちらを睨んでいた。まるでお預けを食らった猫のようだ。


「すまなかった。ゲイザーが気分悪くしてさ」とオレは言い訳をする。


「えっ」と稲瀬みのりは、しかめていた面を戻す。


「大丈夫だったんですか、矢口先輩」


「ああ、アイツの悪い病気が出てさ」


「どういうことですか?」と稲瀬みのりが不思議そうな顔をする。


 ゲイザーの居ないところで勝手に弱点を教えていいものなのか、オレは適当に誤魔化しておいた。


 詩織さんがお皿を持ってきたところで、家族四人全員がテーブルに揃った。全員でいただきますをして、久しぶりに揃っての食事だった。


 オレはちらし寿司を一口食べて、さすが詩織さんだと感心した。


 基本的にちらし寿司に入れるものは、イクラ、レンコン、さやえんどう。これらを刻み海苔と錦糸卵を敷いた酢飯に散らすのが、一般的というか良く見る形だ。


 詩織さんのはそれに加えて、マグロの赤身、海老。それに加えて、なんとカニまで入っていた。これ、もう海鮮丼なんじゃないかと思うくらいだった。


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