第十三話 家族会議
ルールを決めましょう。
夕食後、稲瀬みのりによって家族会議が開かれた。どこで調達したのか、わざわざホワイトボードまで持ち出してきた。
リビングのソファにそれを立てかけると、マーカーで稲瀬みのりが大きな字で「先輩の遅刻が酷い」と記入した。
てっきりオレは先程の件から入るのかと思ってたが、意外なテーマに少し驚く。それは今日の部活で解決したことなのに、またその話を持ち出すのか。
「ママは知ってた?」
オレが登校する前に家を出るのに、知るわけないだろう。勿論、詩織さんは首を左右に振った。
「え、どうして?」と詩織さんが言った。
「どうしてだか、先輩が答えてください」と稲瀬みのりは何故か得意げに、マーカーでオレを指して言った。
「詩織さんの手料理が美味しくて。つい、ゆっくり味わってしまって……」
「だったら、あたしみたく早起きして味わえばいいんじゃないんですか?」
「おっしゃる通りで」
オレはぐうの音も出なかった。
「でも、オレは先輩と約束したし。ゲイザーに家に来られたくないし、明日から早起きするよ」
当然です、と何故かまた得意そうに稲瀬みのりは鼻息を鳴らした。オレをダシにして会議を盛り上げられているような気がしたが、自分自身が悪いので反論は出来なかった。
「じゃなくって。どうして、みのりがそれを知ってるの?」
「へっ」
ここにきて稲瀬みのりの目が点になったが、オレも似たような反応をした。先ほどのどうしてというのは、そのことだったのか。
「だって、学年違うからクラス違うでしょう。みのりはミナユキくん本人から聞いたの?」とオレの方を向いたので、静かに首を左右に振った。
やらかしてしまったな、稲瀬みのり。親父にバレるなら嫌だが、詩織さんならオレは別に問題ないぞ。
詩織さんの問いにオレが即座に否定したのが気に食わなかったのだろう、稲瀬みのりが恨めしそうな目でオレを見ていた。先程の吾輩と同じで、自業自得。身から出た錆ってやつだ。
「もういいだろう」とオレは溜息交じりに稲瀬みのりに言った。
「オレは親父の事、そこまで好きじゃないから苦じゃないけどさ。お前は違うだろう。辛くねえか? 大好きなママにこれ以上、秘密にすんの」
「………」
しばらく稲瀬みのりは黙っていた。泣いているのかって思ったが、難しそうな表情で何かを考えている様子だった。
オレは詩織さんと並んでソファに座ったまま、対面の彼女が何かを話すまでずっと待っていた。
他の人間なら苦痛に思えても、おかしくない時だったかもしれないが。この時不思議と、いつまでも待ってやろうと思えた。
きっと隣で詩織さんがニコニコしながら、彼女の行動を待っていたからだろう。まるで学芸会で、我が子の出番を待つ母親のようだと思った。
そう思えてもおかしくはないか。だって、詩織さんは彼女の母なのだから。
すると稲瀬みのりはテーブルの上のティッシュを掴み、ホワイトボードの字を消した。そして真っ白になったボードにマーカーで大きく「天文部」と記載した。
「たまには先輩も、いいこと言いますね」
そう言って、稲瀬みのりは詩織さんと向き合った。
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