弐 壱とその後、湖都の回想

夜、堤防から放たれる光は昼間の月のようだ。何かを明確に救うわけでもなく、ただそこで光っている。夜の光は、そこに住んでいる人間の生活のパロディなのかも知れない。人生を光で語っているのかも知れない。小さく質素な光だったら静かな老人とか、ディスコなんかは、きっと色々な人間の生活が詰まって入り乱れている。行ったことはないけど。近くにないし、あったとしても行かないだろうけど。じゃあ私は、どんな色で、どんな光り方をするのだろう。無難な白?それとも黒とか。自分で考えてもわかりはしないけど。

結局あの後お母さんに叱られた。挨拶はしろって。そんなものしたって何にもならないというのに。でも、学校サボってたのがばれていないだけ良いか。今日が初めてじゃないし。初めて学校に行かなかった日なんてもう覚えてない。

ベッドの上でごろつく。少し固いスプリングが軋む。これもだいぶ使ってるな。そんなに買い換えるものでもないし。

ベッドは壁に密着するように置いてあるため、身体を起こせば窓から外の景色が見える。夜、飛ぶ鳥も見えない。車もそこまで通らない。此処は静かだ。でも、何処か遠い場所に行きたい。出来れば海のない場所に。何時も馬鹿に広い海を見ていると自分がくだらなく思える。私の人生は言い訳じみている。何に対しても都合の良いように解釈して生きてきている。鮮やかな世界を鮮やかなまま受け取るのは決して誰もが出来ることではない。私の世界は言わばモノクロだ。説明文付きの。とてもつまらない。でも分かりやすいし、自分を傷付けない。それもまた真っ当な生き方だと私は思う。

背を起こすのを辞めてごろんと横になる。今まで夜闇を見ていた目はしみだらけの天井を映す。ぼんやり寝返りを打つと転がり落ちた。ゴンと身体が打ち付けられる。

「痛」

頭をさすりながら起き上がる。床が畳だったためまだ衝撃が吸収された気がする。少し得したかも。

ふと、机の上に置いてあるコンビニの袋が目に入る。そういえば、唐揚げとか食べてなかった。取り出してみる。すっかり冷めて美味しくなさそう。逆に水は温かくなっててこれもまた美味しくなさそう。なんだかやるせなくなってため息をつく。こんなことで良いのだろうか。いいや、良くないと断言できる。しかしどうしたら自分の満足いく一日を過ごせるのかは私にもまだ分からない。これから先分かるのかも分からない。取り出したものをもう一度袋に入れて机脇にあるゴミ箱に入れる。ごそっと渇いた音が鳴った。ごめん、鳥。

もう一度ベッドに横になる。あーあ、どうにかなれ、私。目を瞑って頭を叩いてみても、次に見る世界は同じだった。

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